第285話 空から
ひとり学校を抜け出し、酒場「幸福の花」への最短ルートを飛ぼうとしていたスピカ。
「うむむむ……、長距離の滑空は経験ありませんが、きちんと飛べるでしょうか? それに方向に自信がありません」
勢いよく飛び出したはいいが、魔法学校や酒場の位置関係を正確に把握できていないスピカ。とりあえず、高い教会の屋根に降り立ち、周囲を見回して目印を探す。
「あっちこっちで煙が上がっています! 火消のお手伝いもしたいところですが、いっぱいいないと手が回りません! 困りました!」
景色を確認するが、酒場周辺に目立った高い建物はない。考える前に動いてしまう彼女の欠点なのか、発進したはいいが、目的地へのルートが定まらずに困惑の表情を浮かべている。
しかし、そんな彼女は、眼下に線路を見つけたことで目を輝かせるのだった。
『線路を辿れば間違いなく酒場までいけます! この状況でもしっかり周りが見えていますね、あたし! くふふ……』
線路が建物の陰に隠れない高さを維持して、スピカは最短距離を突き進む。つい先ほど頭を過ぎった、長距離移動への疑問はこの時点でどこかへいってしまったようだ。
彼女の目的は、ギルド「幸福の花」の仲間たちの安否の確認。それさえ済ませれば、すぐに学校へ戻るつもりでいた。
そのはずのスピカだったが――、眼下に映った「ある人影」を見て、地上へと降りるていく。
「舎弟の世話になるとはな……。俺も焼きが回ったもんだ……」
「すんません、ユージンさん! オレらが頼りないばかりに!」
ブレイヴ・ピラーの傘下「牙」のギルドマスター、ユージンは部下の男に担がれていた。その服は赤く染まっており、背負っている男の服も同じく真っ赤に染まっていた。応急処置で包帯は巻いているようだが、血が滲んでおり、彼の傷口がどれほどのものかを如実に物語っていた。
ユージンはブレイヴ・ピラーの指示の元、かつては「同業」だった闇のギルドの者と対峙する。裏の界隈では、凄腕の刀の使い手として名の通っていたユージン。その腕は決して衰えておらず、同業でも余程の手練れでなければ相手にならなかった。
巨大組織の下についたことを嘲笑い、侮辱する元・同業を、ユージンは一切の躊躇いなく斬り捨てていった。相手が少数ならすぐに終わっただろう。
しかし、彼の行動を好ましく思わない者たちは、そこに仲間を集め出したのだ。
予想していたよりも、ずっと多くの人数を相手に戦うことになったユージン。そして、彼の組織は、彼以外「手練れ」と呼べるほどの猛者はいなかった。
街の暴動を抑える――、この目的でいうなら、敵が勝手に集まってくれたことでこの周辺は一網打尽にできていた。
しかし、その代償としてユージンは、深手を負ってしまっていた。彼の部下に回復の心得がある者などいるはずもなく……、彼を背に治療の受けられるところを目指して歩いていた。
そんな「牙」の面々の前に突如、空からひとりの少女が降り立った。
「その人! 『遠征』のとき、あたしを助けてくれた人です! 大怪我してるじゃないですか!?」
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