第103話 魔法的施術
「 ユーターターさーーっんっ!! 」
遺跡の広間にスピカの声が響き渡る。普段の話し声も
「うーん……、返事がありません! やっぱりのこの辺りにはいないと思います!」
「そっ……、そうね。さすがに今の声で聞こえていないはあり得ないと思うわ」
アレンビーはこめかみを指でさすりながらスピカに応えていた。
「念には念を! もう一度呼びかけて――」
「ううん、スピカ! 大丈夫! 大丈夫だから他をあたってみましょう!」
スピカ、アレンビー、それにランギス、コーグ、ケイの5人は王国の捜索隊とともにスガワラが姿を消したという広間にいた。
まさに「しらみつぶし」といった具合に、彼らは端から端を隈なく目を凝らして調べている。その姿はおおよそ「人」を捜しているとは思えないもの。さながら、小さな落とし物でも捜しているかのような。
「王国のアイラ様の話ですと――、たしかこの辺にスガさんの背負っていたリュックだけが置いてあったようですよ?」
ランギスは王国軍の者から説明を聞きながら、右に左に首を捻っている。果たして人間1人が忽然と姿を消すなどということがありえるのかと……。
「……ねぇ、スピカ。ちょっとこっち来てくれる?」
アレンビーはランギスの横に立ち、スピカを手招きする。
「アビー先生、どうしました!?」
スピカは小走りにやってきてアレンビーの隣りに並んだ。そして、彼女の視線の先にある岩壁を見つめる。
「アビー、どうかしましたか? そこの壁は王国の方がずいぶん調べてくれたようですし、僕も先ほど力いっぱい押したり、耳を当ててみたんですが、なにもありませんでした……」
「ごめんなさい、うまく説明できないのですけど……、なんていうか――」
「『魔法結界』に似たものを感じます!」
アレンビーが例える言葉を模索しているところに、スピカの大きな声が割って入った。ただ、これはアレンビーも同感だったようで、「それそれ」と言わんばかりに頷いている。
「梃子でも動きそうにない単なる壁なんですけど、魔法的な施術の気配を感じるんです。ちょうどスピカの言った結界に似た感じの――」
「でもさ、押しても退いても……、叩いても蹴ってもなにもなかったんだよな」
ケイも横から顔を出していた。アレンビーとスピカの話を聞きながら、自身が試したことを説明している。彼はハルバードを扱うだけあってそれなりに力自慢なのだろう、物理的な仕掛けがないかといろいろ試していたようだ。
「アビーよ、例えば――、人を一瞬で別の場所に移動させてしまうような魔法とかあったりするのか? どうにもオレは魔法には疎くてなぁ……」
コーグの質問だった。人が急に姿を消す、たしかに、ある意味これほど魔法染みたことはないのかもしれない。
しかし……。
「少なくとも私は聞いたことない。仮に――、万が一特異魔法の一種でそうしたものがあったとしても、スガさんと一緒にいたのはあのアイラ……様と王国魔導士団の方です。気付かないとは思えないわ」
アレンビーは、少し前のアイラとのやりとりを思い出し、思わず彼女を呼び捨てにしようとした。だが、近くにいる王国軍の兵が目に入り、不自然なかたちで「様」を付け足すのだった。
「うむむむむ……。でも、なんだかこの壁、気になってしまいます」
スピカは鼻の頭がぶつかりそうなほどに、壁に顔を寄せて唸っていた。
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