第102話 歩みを止めない者
「アイラ様――、それにローゼンバーグ様もお休みなられていないと聞きましたが、本当にこのまま進行を続けるのですか?」
遺跡に侵入した部隊のほとんどが一旦その足を止めていた。しかし、アイラ率いる部隊だけは例外だった。もっとも彼女に同行していた剣士と回復役の魔法使いは予備隊の者と入れ替わっている。
そこにラナンキュラスを加え、彼女たちは今もなお遺跡の奥を進み続けている。
「私の心配はいりませんが――、『ローゼンバーグ卿』は大丈夫なのですか? こうした任務に慣れているとは思えませんが?」
「ふふっ……、その堅苦しい呼び方はやめませんか? せめて行動をともにする間だけでも? アイラさん?」
「……あなたたちは揃いも揃って、私の調子を狂わせます」
「それがスガさんのことならきっと――、ボクも彼の影響を受けてのことだと思いますよ?」
アイラ・エスウスは戦闘能力もさることながら、体力も常人を遥かに上回っていた。まさに「鉄人」の如き、底抜けの活動能力をもっており、まともな休憩をとらずにずっと進行を続けている。
ラナンキュラスも同様にあまり身体を休めていない。しかし、そもそも遺跡内で行動を開始したのはアイラの方がずっと先なのだ。突入の口火を切ってから今に至るまで休み知らずで動き続けている。
ただ、アイラは王国の隊を率いる身。当然、休憩の重要性も理解している。そんな彼女がまったく休まずに奥を目指しているのは、スガワラを見失ったことに責任を感じているからかもしれない。
――とはいえ、当のアイラが自身の心中を語ることは決してない。ゆえに、これがスガワラを一刻でも早く見つけるための行動なのか、単に任務の完遂を目的としたものなのかは彼女にしかわからなかった。
一方、ラナンキュラスはアイラが指摘するように、戦いやそれに類する行動に慣れている人間ではない。場の緊張を含め、体力の消耗は少なくないはずだ。
それでも彼女が足を止めないのは、スガワラを1秒でも早く見つけ出したい一心。彼を誰よりも理解しているからこそ、歩みを止めてはならないと思っていた。遺跡にいるわずかな時間が、彼にとっては命取りになりかねないとわかっているのだ。
あるいは――、アイラが進み続けるのはラナンキュラスが「止まらない」とわかっているからかもしれない。彼女が歩を止めない以上、自分も動かざる得ないからだ。
隊の先頭を行くアイラは時折振り返ってラナンキュラスの表情を確認する。平静を装ってはいるが――、彼女の顔に焦りの色があるのは感じ取っていた。
これは「目」から人の感情を見抜くアイラでなくてもおそらく感じ取れるもの。そこに高名な魔法使いゆえの「特別」はなく、至って普通の人間のそれなのだ。
『――少なくとも、彼の身を案じているであろう今のローゼンバーグ卿は至って普通。どこにでもいるただの女性にしか見えないのですが……』
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