第83話 行き止まり

 私はアイラさんの背を追いかけ、遺跡の奥を進んでいた。時折、遠くから爆発音のような音と小さな振動が伝わってくる。天井からパラパラと小さな瓦礫が降ってくることもあった。


「――交戦が激しくなってるようですね。中へ入ってる魔法使いは厳選されてるので大丈夫と思いますけど――、こう揺れが多いと心配になっちゃいます」


――、とは?」


 魔法使いの女性が言ったことの意味が私にはよくわからなかった。一体、なにに対しての「心配」だろうか?


「下手に高火力の魔法を壁やら天井にぶつけられると思わぬところで崩落とか起こったりするんですよ? そのため、遺跡内に侵入する部隊の魔法使いは火力より技術重視で選ばれるんです!」


 彼女はそう説明をしながら腰に手を当て胸を張っている。どうやら王国魔導士団の中でも彼女はその技術面に優れている、ということなのだろう。


「しっかし、この遺跡はどこまで続いてるんですかね? もうずいぶんと歩きましたけど……」


 行き止まりに当たらない限りは奥へ奥へと進み続け、遭遇するまものを殲滅するのが今回の任務だ。ここまで小休憩を何度か挟みながら歩いている。中へ入ってからずいぶんと時間も経っているだろう。

 本当にこの遺跡はどこまで続いてるのか――、文字通りの出口の見えない不安が頭を過ぎる。



「あれこれ考えてもやることに変わりはありません。スガワラさんがいるせいか、皆揃っていつもより口数が多いように思いますが――」


「「「申し訳ございません、アイラ様っ!!」」」


 アイラさんの言葉に王国軍の人たちは弾かれたように反応する。これと同じ光景はに入ってすぐに見た気がする。私も慌てて謝ろうとするが――。


「咎めているわけではありません。ただ――、言葉が飛び交うのに私は慣れていませんから」


 相変わらず、彼女はまったく振り返らずに前へと進みながらそう口にした。ただ、その口にした内容が意外だったので私は次になんと言うべきか困惑してしまう。

 そして、それはどうやら周りの仲間たちも同様みたいだ。一度は苦言を呈されているのだから尚更だろう。



「――この先、また広い空間に出ます。幸いまものの気配は感じませんが、念のため私が先に入ります。あなたたちはここで待機を」


 彼女はそう言ってひとり前を行くペースを上げた。魔法使いの1人が小走りでその背を追い、残った人たちは私とともにゆっくりとその背を追っていく。


 広間の手前で、私と王国軍の剣士と魔法使い1名ずつが待機、アイラさんと魔法使い1人が広間にまものがいないかを確かめている。


「……ここは安全のようです。ですが、奥へ進む道がありません」


 アイラさんの言葉を合図に私たちも広間へと入る。私はぐるりと周囲を見回したが、確かにここから先へ進む道が見当たらない。


「行き止まりでしょうか? いかがいたしましょう、アイラ様?」


「まものはいませんから、手分けしてここを調べましょう。なにもなければ引き返します。今後立ち入る必要のない道――、とわかっただけでも収穫となるでしょう」


 彼女は仲間たちに手早く指示を出した。王国軍の人たちは各方向に分かれて広間の中を散っていく。


「スガワラさんもお手伝い願えますか? 気になることがあれば声を上げてください。近くの者がそちらに行きますから」


「お任せください。戦い以外なら――、お役に立つつもりで来ましたから」


「……文句のひとつも言わないのですね? 逆に驚きました」


「――えっ?」

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