第17話 穏便
「おい、そこの男ども! 運ぶの手伝いやがれ!」
2人がかりで微動だにしない木箱を外へ運び出すため、盗賊たちはランギスとスガワラを呼びつけた。
「ここは大人しく従いましょう、スガさん? きっとうまく調整してくれますよ?」
ランギスは間近にいるスガワラにしか聞こえない小さな声でそう言った。そして彼の視線が示す先にはスピカの姿がある。この段階でスガワラはようやく状況を理解した。
ランギスが「魔鉱石」といった木箱の中身には大したものは入っていない。だが、そこにスピカの重力魔法が働いて重さが増しているのだ。
そして、これは先ほど彼が言った「時間稼ぎ」なのだと……。やはり、彼はなにかしらの勝算をもっている。しかし、それがなんなのかスガワラにはまだわからなかった。
ランギスとスガワラは、万が一、旅芸人たちに危害が加えられないよう盗賊の手伝いに行く。彼ら2人が手を貸すと、例の木箱は驚くほど簡単に持ち上がるのだった。
盗賊たちは木箱を馬車の荷台から降ろすと、その中身を確認しようと蓋に手をかける。そのとき、見張りをしていた男が呼びかけるように声を上げた。
「おいっ! あれは騎馬か? こっちに向かって来てるぞ?」
目を凝らすと崖道の向こう側――、ちょうどスワロー一座の馬車が今通ってきた道から騎馬が2騎、こちら側へ走って来ていた。馬1頭にそれぞれ2人ずつ人が跨っているようだ。
盗賊たち同様、遠目に騎馬の姿を確認したランギスは「こほん」とひとつ、咳ばらいをした。
「さて――、できれば穏便に済ませたいのですが、ここらで手を引いてもらえませんか? 盗人の皆さん方?」
突然のランギスの言葉に盗賊の1人が掴みかかった。しかし、彼の表情には驚くほどの余裕がある。
「あの騎馬は僕の仲間――、すなわち『ブレイヴ・ピラー』の部隊です。もはやあなた方がどう抵抗しようと逃れる術なんてありませんよ?」
これを聞いてランギスとは逆に動揺を見せる盗賊たち。だが、彼らはそもそも戦力的な優位ではなく、落石による「脅し」で盗みを実行しようとしていた。
「そんな脅しが通用すると思ってるのか? 何人押し掛けようが、馬車をぺしゃんこにされたら困るのに変わりはないだろうがっ!?」
「うちの剣士ならあなた方を叩きのめして、その馬車に放り込むことも容易にできますよ? 一緒に岩で潰されますか?」
ランギスは強気の姿勢を崩さない。顔つきや体型含めて温和に見える彼だが、ベテラン剣士としてそれなりに場数を潜っているのだ。隣りに立つスガワラは今、その一端を垣間見ていた。
――そして、彼と盗賊がこの問答をしている間にも騎馬はこちらへと近づいて来ている。
状況が変わったと判断したのか、荷台からアレンビーとスピカも降りてきた。
「形勢逆転みたいね? 無意味に馬車を狙おうものなら生きて返さないわよ? せっかく穏便にすませようとしてくれてるのだから従ったら?」
アレンビーはランギスの横に立ち、杖を横に広げて、それで巻き取るようにスガワラを自分の後ろへと誘導した。あくまで非・戦闘員の彼を前に出すつもりはないらしい。
『まさかこんなところで援軍が来るなんて……。正直、私の方が驚いたわ』
彼女はさもあたりのような表情を盗賊に向けながら、内心少し驚いていた。そして、その視線を今にもこちらに到着するであろう2騎の騎馬へと向ける。そこでアレンビーは、なにやら見慣れた人影を見つけるのだった。
「あの後ろに乗ってるの――、パララじゃない?」
それを聞いて、スガワラも彼女と同じ視線の先を追う。たしかにそこには、彼にも見慣れたわかりやすい三角帽子があった。
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