第18話 悪あがき

 ブレイヴ・ピラーの剣士が3人、そしておそらくは「トゥインクル」から要請を受けたであろうパララも馬から降りるとただちに散開した。


 不自然な場所で立ち止まる2台の馬車、そこにいる同じくブレイヴ・ピラーのランギスが送る視線――、それらの情報からその場の状況を素早く理解し、的確に行動を開始したのだ。


 見張りのため1人離れた馬車に立っていた盗賊の男は瞬く間に下馬した剣士に捕らえられた。残された者たちは慌てて武器を手に応戦の姿勢を見せたが、注意が逸れたところをランギスは見逃さなかった。鞘に収めたままの剣で1人を強打し、気絶させる。


 こうなると残った盗賊たちが考えるのは、誰かを人質にして逃げること。しかし、悪党の思考を十分に理解している剣士はすでにスピカの立つ馬車の荷台へと回り込んでいた。


 また1人、ここでも取り押さえられ最後の1人になった盗賊の男はなりふり構わず逃げ出そうとした。

 しかし、彼の退路には突如として現れた炎の壁が立ち塞がり、行く手を阻まれるのだった。



 あまりにあっさりと事態は収束に向かっていく。スガワラは移り変わる状況を必死に目で追いながら、安堵の息をもらした。



「スピカっ! パララも! 手を貸しなさい!」



 そのとき、アレンビーが大きな声をあげる。盗賊4人のうち、3人はすでに駆け付けた剣士によって捕らえられている。残る1人も炎に退路を塞がれ、もう成す術がない。

 ゆえに、スガワラはアレンビーが「なに」に対して助力を求めたのかわからずにいた。


 突然名前を呼ばれたパララ。どうやら彼女はアレンビーやスピカ、スガワラといった知り合いがこの場にいるとは知らなかったようだ。一瞬、虚を突かれた表情を見せたが、すぐに「魔法使い」としての目付に切り替わる。


『挨拶は後! アレンビーさんの意図は――』



 アレンビーの目線の先には、例の巨大な岩があった。そして、その周囲にいる盗賊の仲間と思しき人影。さらにそこから真下に視線を降ろすと、スワロー一座の馬車が止まっている。


 彼女は退路を失った盗賊がとるであろう「最悪の行動」を予期していた。仲間も捕まり、どうしようもなくなった者は最後に悪あがきをする。自棄になった人間は後先を考えない。


 刹那――、追い詰められた盗賊の男は上に向かってなにかを放った。それは空中で光を放つ。マジックアイテムの一種だろうか、目くらましにしては幾分頼りない光。



「てめぇらがいくら強かろうがあの岩を止められるかっ!? 下手に抵抗したことを後悔させてやるぜっ!」



 宙で放たれた光は、崖の上にいる仲間への合図。それを確認した盗賊の本隊は数人掛かりで一斉に巨大な岩へと力を込める。

 巨大で無機質なその塊は、ゆっくりと傾いてその半分が地面の支えを失ったとき、重力に任せて下へと加速しながら落ちていった。

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