第64話 王国の要請

 ブレイヴ・ピラー本部の会議室、シャネイラを筆頭にグロイツェル、カレンといった各隊の隊長が集められていた。


 ブレイヴ・ピラーは1から9の隊を基本に組織が編成されている。わけあって「4番」のみ欠番となっており、隠密・潜入を専門とする3番隊の隊長「ミラージュ」を除いて、すべての長が顔を連ねていた。

 末席には、なにかと理由を付けて会議には出たがらない9番隊のリンカも珍しく顔を出している。


 ただ、リンカ・ティンバーレイクは天性の「勘」の持ち主と言われている。彼女は自分の力が必要となるときは必ずその場に姿を現し、逆に他でも代わりが務まる場にはまず姿を現さない。


 ゆえに――、彼女の姿のある会議はそれだけで事の重大性を物語っているようですらあった。



「王国から指令がありました。近いうちに『黒の遺跡』のまもの殲滅を執り行うと――。ついては、各ギルドから一定数の人員を派遣するよう指示がきております」


 シャネイラの言葉に各部隊長たちは息を呑んだ。特にカレンは、過去に黒の遺跡にて苦い経験をしている。彼女は当時の記憶を思い起こし、眉間に皺を寄せるのだった。


「以前に同様の作戦を行い、失敗をしております。アルコンブリッジでのまもの襲撃もあの作戦に端を発していると言われていますが……」


「前回と異なるのは王国直属の部隊編成でしょう。指揮官はあのハインデル公。騎士団のアイラ・エスウスやレギル・オーガスタ、魔導士団のリン・ローレライにボールガード卿。王国は先日、活躍した人員をそのまま投入するつもりのようですね?」


 グロイツェルの言葉にシャネイラは、王国からの指令書を見ながら答えた。「ハインデル」の名を聞き、グロイツェルの表情がほんのわずかだが険しさを増す。


が指揮官ならマスターを戦線に出す訳にはいきません。今回は私が部隊の指揮を執りましょう」


 グロイツェルは自身の兄をあえて名前で呼び、まもの討伐への参加を志願する。彼の言った「ハインデルが指揮官なら――」には明確な理由があった。それは、ここに集まる者たちにならあえて説明不要なほどに周知されていること。



 王国の知将、ハインデルはたしかに王国軍指折りの指揮官と言われている。彼が遂行する作戦は無駄がなく、いつも最速・最短で結果を残していた。


 しかし、それと同時に彼の指揮する戦いは明確な犠牲を伴うのだ。要は「捨て駒」。それを使って彼の戦略は組み立てられる。戦果を考えれば、その犠牲ゆえに全体の被害は「最小」で済んでいるのだろう。


 軍略家、指揮官としてこれは正しい。ただ、あまりに無慈悲に駒を切り捨てる彼のやり方は一定数の批判を買っているのもまた事実だった。人を「数」としてしか捉えないハインデル。

 ゆえに王国とギルドの混成部隊の場合、各ギルドの長はこう考えるのだ。「今回の捨て駒は我々かもしれない」――、と。


「グロイツェルがそのつもりならあえて止めはしません。私かグロイツェル、どちらかは本部に残すようにするつもりでしたから」


 シャネイラの返事にグロイツェルは無言で頭を下げる。


「荒事任務ならどうせうちの隊は参加だろ? まもの共にいつかのお返しをしてあげないとねぇ?」


「はぁー、この手の任務で9番隊はパスってことはないですよねー? 私だけお留守番ってのも無理ですよねー?」


 場の緊張感にそぐわない口調で声を上げたのは、カレンとリンカのふたり。シャネイラはふたりの顔を交互に見るとゆっくり頷いた。


「カレンの2番隊は最前線に立ってもらうことになるでしょう。リンカは逆に後方の要です。細かい人選はグロイツェルと決めますが、ふたりは決まったものだと思っていなさい」


 シャネイラの言葉にカレンは力強く頷き、リンカは手を大きく伸ばして、豊満な胸をデスクに押し付けるようにへたり込むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る