第65話 ケイとコーグ

「先日、入団希望のあった『ケイ・イーグリッド』くんと『コーグ・アーヴェイ』さんの2名についての報告をもらってきましたよ!」


 ギルド「幸福の花」、本部にて私はランさんから2人の入団希望者についての調査報告を聞いていた。隣りには、ポチョムキンさんも一緒にいる。


「ふむ。スガワラの地道な活動が実を結んだようじゃな。して、どうなのじゃ? その希望者2人は?」


「我々、ブレイヴ・ピラーと――、知恵の結晶からも特に断る理由はないときています。最終判断はもちろんギルドマスターのスガさんに委ねますが……」


 ランさんは数枚の報告書と睨めっこしながら何度か首を捻っている。


「一応、お耳に入れときたい事柄が両名ともにあるんですよ」


 2人とも今後、行動を共にしていく仲間になるかもしれない人たちだ。安心して迎え入れるためにもきちんと彼らのことを知っておかねばならない。異世界でもどうやら私のいた世界で言うところの「反社チェック」のようなものがあるらしい。



 ランさんがまず説明してくれたのはコーグさん。彼はケイさん同様に元は隣りの連邦諸国から来た冒険家。旅をしながら行く先々で仕事の依頼を受けているらしい。それらの内容は主にまもの討伐や護衛であり、たしかな腕をもっているようだ。


 一方で、金銭絡み――、主に借金のトラブルが過去に何度かあるとの情報も上がっていた。私が初めて彼の仕事を引き受けた際も、宿代を払えるか危うい状況にあったのを思い出す。なんというか――、お金の管理が甘い人なのだろう。


「おほん! このギルドのお金はこのマルトーが管理しておる! 団員だろうと報酬以上の援助をするつもりはない! そこだけははっきりさせといたほうが良いじゃろうの!」


 ポチョムキンさんはパララさんのおかげか、私のギルドの裏方を責任もって務めてくれている。言動と態度に若干の問題はあるが、非常にありがたい存在だ。

 彼の意見はもっともでお金で問題は信用を揺るがすきっかけとなる。コーグさんには、お金の貸し借りはできないとだけははっきりさせておこう。



「次に――、なんですが、僕も驚いたんですよ? カレンちゃんから聞いているかもしれませんが、隣りの連邦では非常に有名な戦士なんです」


 私のギルドは設立してまもなく、実績もない。ゆえに人材に決して贅沢は言えないのだ。ところが、飛び入りでやってきたは人がとんでもない逸材というではないか。


 とてもありがたい話なのだが――、不思議に思わないわけではなかった。私が言うのもおかしな話だが、「どうしてなのか?」は誰もが疑問に思うところだろう。


「ただ……、ですね。ここ数か月、連邦とアレクシアでいくつかのギルドに所属しては短期間で抜けている記録が残っているんですよ。トラブルの形跡はありませんけど、同時に直近の実績がまったくありませんね」


 隣国までその名を轟かせるほどの戦士。彼の話だとパートナーが負傷したことにより、しばらく表舞台から姿を消していたとのことだったが……?



 私はランさんの報告を聞きながら、概ねその2名を受け入れる方向で考えていた。どんな人であろうと過去を辿れば問題点の1つや2つは出てくるものだろう。私だってこれまでの人生すべて清廉潔白かというとそうではない。


 今はとてもシンプルに人員の補強をしたいのと――、このギルドに志願してくれた気持ちを無下にはしたくないと思っていた。

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