第66話 役割

「改めまして、ギルドマスターを務めますスガワラ・ユタカです。ようこそ、『幸福の花』へ。歓迎いたします」


 先日、ランさんの報告を受けて協議した結果、ケイさんとコーグさんの両名をギルドで受け入れることになった。今は本部にて全員で彼らを迎え入れている。



「ラナンキュラスです。ボクのことは『ラナ』とお呼びください」


「スピカ・コン・トレイルです! まだ『見習い』ですが、よろしくお願いしますです!」


 私の挨拶に続いて、ラナさんは落ち着いた所作で頭を下げた。対照的に、頭突きのような勢いで最敬礼以上に頭を下げて名乗るコンちゃん。


「おほん! 我はマルトー・ポチョムキン! このスガワラに協力して運営を手伝っておる!」


 ポチョムキンさんは決して高くない身長を精一杯高く見せるかのように背を逸らせ胸を張っている。


「私はアレンビー、『知恵の結晶』からの応援で来てるわ。ここでは『アビー』でいいから。よろしく」


「僕はランギス・ベルモント、気さくに『ランさん』と呼んでくださいね! 『ブレイヴ・ピラー』からの応援です!」



「あー……、ケイ・イーグリッドっていいます。『ケイ』と呼んでくれたら反応します。よろしくお願いします」


「コーグ・アーヴェイだ! 俺も『コーグ』と呼んでくれ! よろしく頼むぞ!」


 ケイさ――、もとい「ケイ」はどこか落ち着きのない仕草を見せながら頭を深々と下げていた。一方の「コーグ」は、私やラナさんと顔見知りというのもあるのだろうか、不自然なほど堂々としている。

 そして、皆に名乗ったつもりなのだろうが、視線の先はずっとラナさんに固定されていた。もっとも当のラナさんは全然別の方向を向いているのだが……。



「いやー、経験豊富な方が2人も入ってくれるなんて! これからは受けられる依頼の幅も広がりますね! スガさん!?」

「前衛はランさんに任せきりでしたから。これからは3人になるわけだけから戦い方の幅も広がりますよ」

「あたしは皆さんと連携の訓練とかしてみたいです! なんだかワクワクしますね!」


 皆、人が増えたことでの思い思いを語っている。ラナさんはそんな姿を見つめながら私の横で小さく「楽しみですね」とだけ呟いた。



 私たちはまず各々の「得意」を出し合い、チームとしての役割を明確にしていった。今の人数ならおそらく総動員して1つのチームとして動くことになるだろうからだ。


 少人数なら指揮系統、さらに自ら前に出て剣を振るい、時には回復魔法も扱えるランさんはまさにユーティリティプレイヤー。


 アビーさんは、高火力の火属性魔法をもっとも得意としている。――とはいえ、詠唱時間に余裕があれば他の属性も扱えるという話だ。


「――あまり期待はしないでください。ラナ様と比べると私なんてミジンコ以下ですから」


 これまでは自信に溢れた言葉をよく耳にしてきたのだが、ラナさん比較になると急に「超」が付くほど控えめになるアビーさん……。



 コンちゃんは重力魔法と風の属性を得意としている。「重力」は、直接人の動きを封じることもできれば、ものを運んだりといった応用の幅も広い。


「あたしの魔法は一点集中ができません。乱戦のときは敵さんから離れてくださいね!」


 彼女の魔法は面が対象となり、点は苦手のようだ。今後の戦術的な意味合いで押さえておかないといけないポイントになるだろう。


 ケイはハルバードを豪快に振りまわす戦い方をするそうだ。武器の仕様から狭い屋内は不向きらしい。


「一応、剣も扱えるんですけど……、周りを気にせずぶん回すのが自分は性に合ってますんで」


 コーグは「刃物」を主に扱うようだが、その長さは問わないらしい。極論、一般的な長さの剣から短いのはナイフまで可能らしい。


「極端に長いものでなければ、その丈に応じて使い分けられるぞ! 武器が破損したり、奪われたりなんて冒険家なら珍しくないからな」



 そして、私――、スガワラも実は日々いろいろと「スキル」を身に付けているのだ。

 まずは、料理。ラナさんとブルードさんに協力してもらい、酒場で生の食材のさばき方を教わっている。旅先で食料を現地調達、みたいな非常事態がないとも限らない。


 他にもランさんから旅に必要なスキルをいくつか習っている。「剣術」もそのひとつだが――、これはまだまだ胸を張って言えるレベルではない。

 それとは別で、彼から意外に重宝する能力として授けられたのがなんと「荷物持ち」。


 これは単に「持つ」ではなく、状況に応じて必要な道具をすぐさま準備し、場合によっては不要なものとの取捨選択をしていく。

 とても地味な役回りだが、これはいわゆる「縁の下の力持ち」で、なくてはならない存在らしい。そして、なんというか――、私と相性のよさそうなポジションとも思えた。


『アイテムの管理を誰かに任せられると、戦う人間はとても楽になるんですよ! ですから、スガさん自身が現場に出るおつもりならここを抑えるのがいいと思いますよ!』


 ランさんはそう言って私にさまざまな冒険スキルを伝授してくれている。それに伴って体力づくりにも励んでいるところだ。少なくとも今の規模感のうちは、私も現場に出て働くつもりでいる。


 新メンバーを加えたギルド「幸福の花」。今日からまた新しい一歩を踏み出していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る