第5章
第67話 舞い降りた
「我らのような規模の小さいギルドにはありがたい要請なのじゃが――、内容が内容じゃからの……」
ギルド「幸福の花」、本部にて集まった私たちはポチョムキンさんの言葉に耳を傾けていた。武器を手に戦える戦士が2人も増え、いざ次の依頼を探そうと思った矢先、舞い込んだ知らせ。
それは王国が中心となって近日中に展開される「黒の遺跡」のまもの殲滅作戦への参加要請だった。
アレクシアに属するギルドは、一定の武力保持を認められる条件として有事の際に王国からの出動要請に応じる義務を負っている。これは規模にかかわらず課せられるもので、設立まもなく人員も少ないここも例外ではなかった。
もちろん、協力した人数に対して国から報酬も支払われる仕組みとなっている。知名度が低かったり、規模の小さいところにとっては本来、一定の額が約束されている国からの要請はありがたいものなのだが……。
「黒の遺跡」――、ここの危険度は、今アレクシアに住む者なら誰もが知っている。
王国とギルドの混成部隊が一度、まもの討伐を失敗している遺跡。そしてアルコンブリッジを襲った大量のまものの発生源……、こうした事実からたとえそれなりの報酬が確約されていようとも決して喜べないのだ。
それに私はかつてその遺跡に入り、まものと遭遇した過去もある。嫌な記憶がいくつも脳裏を過っていく。
「ギルドの部隊は王国軍とは別になると思いますからね……。ブレイヴ・ピラーではグロイツェル様が指揮を執る予定になってます。協力関係にある僕らの部隊も吸収してくれれば、安全な配置を考えてくれるかもしれません」
「魔法ギルドの人員は個別でいろんな部隊に割り振られることが多いですから……。知恵の結晶で指揮権をもてるかわかりませんが、こちらもマスターに相談してみますよ?」
ランさんとアビーさんは王国の要請に対して「幸福の花」の人員として参加してくれるそうだ。そのうえで、私たちがいきなり危険な役回りを担わないよう配慮してくれている。
たしかに私たちは個々の腕は一旦おいて、「部隊」としての練度は極めて低い。いきなりまものに囲まれるような事態となれば対処できるかわからないのだ。
「まさか最初の依頼が王国からで、しかも『黒の遺跡』とは恐れ入ったな……。宝探しをしてる余裕なんて無さそうだぞ」
「自分の武器は狭いとこには不向きなんで……、普通の剣を使うしかないのかな」
入団して早々の過酷な依頼とあって、コーグとケイの2人もさすがに不安な様子だ。
ただ――、意外なのは、黒の遺跡について知っていながら平常運転のコンちゃん。いつもの明るい表情のまま「まものを仕留めるのはあたしに任せてください!」と言うくらいだ。
「おほん! スガワラよ、参加人数は必ずしも全員でないといけないわけではない。ここは経験豊富な者を選りすぐってもいいかもしれんぞ?」
「いいえ。要請には『3名以上』とありますから、下手に絞るより私たちの規模ならむしろ全員で行った方が安全の気がします」
「ふぅむ。皆がそれでよいのなら止めはせんが……。こればっかりは我も力になれんからの」
ポチョムキンさんが珍しく申し訳なさそうな顔をしている。彼は彼なりにこのギルドでの責任感と仲間意識をもってくれているようだ。
「――大丈夫ですよ? スガさんもランさんも一度、奥まで入って無傷で戻って来ているわけですから。それに」
私の背中から優しくも――、強い意志の込められた声が響く。
「ボクも参加しますよ。任せてください」
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