第68話 左目
王国から各ギルドへの通達から2週間後、「黒の遺跡」への行軍は開始された。本来なら最短ルートにあった大橋「アルコンブリッジ」が先のまもの襲撃で大破したことにより、大きく迂回しての道を進んでいく。
しとしとと小雨が降り続く日、曇天の浮かぶ空模様は遺跡へと向かう者たちの心境を表しているかのようでもあった。
後方にハインデルが指揮する王国軍の中枢はあった。彼はギルドから選出された人員を確認し腕組みをしている。そして、彼の周囲には王国の精鋭たちが顔を連ねていた。
「ブレイヴ・ピラーはシャネイラがお留守番してるって話だぜ? ――ったくつまらないったらないぜ? 『王国最強』様の力をこの目で拝んでみたかったのによぉ?」
レギルは目にかかった銀色の前髪をかき上げながら悪態をついていた。その隣りで魔導士のリンが大きなため息をつく。
「あなたとシャネイラが一緒にならなくてこちらはむしろ安心しています。難癖をつけて斬りかかりでもされたら迷惑ですから」
「ひゃはっ! 斬りかかってもなんとかするんじゃないのか? なんてたって『最強』なんだからよ」
「――少し静かにしてもらえませんか、レギル? あなたのその品のない口調を耳障りなんです」
アイラは明らかに不機嫌な――、仏頂面をレギルへと向けた。この2人はともに王国騎士団で指折りの使い手だが……、相性は良くないらしい。
アイラの言葉に不快感を露わにし、レギルは彼女の顔を睨み付けている。
「――レギル、その目付をやめなさい。アイラがそれに反応したら洒落になりません」
魔導士のリンはアイラとレギルの間に割って入り、2人の視界を遮った。
「今、難癖つけてきたのはアイラの方だぜ? そっちがその気なら俺様だって手を退くつもりはねぇけどなぁ?」
「アイラ、レギル……、いい加減にしろ。貴様らの話でオレの思考がまとまらん。レギルは間違ってもアイラにだけは敵意ある視線を向けるな。いろいろと面倒になる」
ハインデルの言葉にレギルはさらに不快感を増幅させたようだが……、急にそっぽを向いて話を終わらせるのだった。
ハインデルとリン、両者が気にしているのはともにアイラへ向ける「視線」。これは彼女のもつ独特の「能力」に起因していた。
アイラ・エスウスは、相手の視線、動き、瞳の揺れや向きで感情や行動を予測する変わった特徴をもっている。
特にこれは、「敵意」に対して敏感であり、アイラへ攻撃的な視線を向けた者は次の瞬間に斬られていた、なんて話もあるくらいだ。
「はっ! アイラが片方隠してるのは、逆に
「黙りなさい。これは、暗さに慣らしているに過ぎません」
「アイラの眼帯って――、そのためだったのですね。私はてっきり……」
「私の顔を傷付けられる者なんていません。左目もちゃんと見えているのですよ」
リンはアイラの左目の秘密を――、といってもおそらくアイラは秘密にしているつもりすらないのだろうが、その理由をこのときはじめて知った。そして、どうやらこの場にいたハインデル、レギル、ボールガードもそれは同じのようだった。
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