第69話 パララスイッチ
黒の遺跡の周囲にはすでに野営地ができており、慌ただしく人が動き回っていた。巨大なピラミッド型の遺跡で、各方向に1ずつ入り口はあるが、それぞれの経路が中で繋がっているかはまだ確認されていないようだ。
私がこの異世界で初めて短剣を握り――、初めて「まもの」と遭遇した場所でもある「黒の遺跡」。
改めてこの場に来ると、かつての経験と恐怖が甦ってきた。遠目に遺跡を見つめていると、手に優しい温もりを感じた。ラナさんが私の手を握っていたのだ。
「――大丈夫ですよ? スガさんはボクが全力で守りますから」
本来なら男の私が彼女にかけるべき言葉なのだろう。自身の非力を嘆きたくなるが、ラナさんの言葉はなにより温かく心強かった。
「らっ…ラナにスガさん! みっ、みなさんも呼ばれてたんですね! すっ、スピカちゃんにアビーまで!」
大きな杖を抱えてこちらにやって来たのは魔法使いのパララさん。私のギルドの初対面の人にペコペコと頭を下げながら自己紹介をしてくれいる。
「パララのスイッチが入ってないみたいだから――、中に入るまでは安全とみてよさそうね?」
アビーさんは少し屈んでパララさんに目線を合わせた。パララさんは落ち着きのない挙動を交えながら彼女と話をしている。先日、護衛任務中に出会ったときとは違う、いつものパララさんだ。
「かっ、カレンさんやリンカさんも…み、見かけました! 知っている人がお、多いと…こっ心強いです!」
「あたしもパララ先輩とご一緒できるなんて嬉しいです! 一緒にまものをやっつけましょう!」
パララさんは背があまり高くないのもあって、コンちゃんと話していると同級生みたいだ。このふたりはなんというか――、波長が合っているように見える。
「スガさんよ、あの子なんだかしどろもどろだけど、大丈夫なのか?」
コーグが視線をパララさんに向けながら心配そうに聞いてくる。たしかにあの言動を見ているとこうした気持ちになるのはわからないでもない。
「大丈夫よ、コーグ? あの子の腕は、セントラルを首席で卒業した私が保証するわ」
「ほー……、人は見た目によらんと言うが、あんな感じでも戦えるもんなんだな。なぁ、ケイ?」
「えっ! 自分ですか!? まっ、まぁ……、魔法使いは見た目じゃわかんないですよね? ラナさんもスピカちゃんも優しそうだし――」
「なんでそこに私の名前はないのよ、ケイ?」
「あーっと……、アビーはなんてーか、威厳つうか風格つうか、怖そうつうか……」
「あなた前衛でしょ? 私に背中預けるのよ? 言葉には注意しなさい」
「そういうところが怖いんだって……」
新しい人員を2人迎えた私たち「幸福の花」だが、仲間同士は互いにしっかり打ち解けているようだ。内容はともかくとして、コミュニケーションはしっかりとれている。
「さて、スガさん。本営にて王国軍からの指示がありますから行きましょうか! 僕も同行しますよ!」
私はランさんとともに野営地の奥へと進んでいく。日没の時間が近付いており、周りを松明の灯りと魔鉱石の灯りが照らしていた。
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