第59話 ハルバード使い

「――ランさんの判断は正しいと思うよ? スガの『剣』を活かすためにも早いとこ使える剣士を見つけないとだねぇ」


「はい、同じことをアビーさんにも言われています」


 カレンさんには「アビーさん」が知恵の結晶のアレンビーさんだと説明する。私たちは近くの空き地から酒場へと戻っていた。


 彼女に私の「剣」を見てもらった。正直、笑われるくらいの覚悟でいたが、剣技に関するカレンさんは至って真剣だ。



「さてさて、私はラナとスピカちゃんに挨拶したら本部に戻るかねぇ。あんまり油売ってると後がうるさい男がいるからさ」


 「close」の札の下がった扉を開け、私たちは酒場に入る。すると、コンちゃんの大きな声がお出迎えをしてくれた。


「あっ! 戻ってこられましたよ! あちらがマスター・ユタタタさんです!」


 予想外だったのは、ラナさんとコンちゃん――、ともう1人、見知らぬ男性がカウンターに座っていたことだ。「close」がすでにかかっていたので、お客とは違うのだろう。


「スガさん、こちら『ケイ・イーグリッド』さん。ギルド入団希望の戦士様ですよ?」


 ラナさんがこちらに歩み寄って来て、男性の紹介をしてくれた。ちょうどカレンさんと人員についての話をしていたので、噂をすればなんとやらだ。


「はじめまして、スガワラさん。自分は――、ケイ・イーグリッドっていいます。近くの宿屋でここの貼り紙を見て来ました」


 「ケイ」と名乗った男性は、こちらを向いて軽く頭を下げた。宿屋のゴードンさんが話していたのはひょっとしたらこの人だろうか。早速、足を運んでくれるなんて願ったり叶ったりだ。


 ラナさんの言った「戦士」と同時に彼の横に立て掛けられた巨大な得物が目に入った。槍のように長い柄、しかし、革で包まれた刃の部分は明らかに槍より大きく見える。



「――ハルバードか」



 隣りにいたカレンさんがその得物に近付き、呟いた。


「……待って。今、あんた『ケイ・イーグリッド』って言わなかったかい?」


「あー、はい。自分はケイ・イーグリッドですが……?」


「驚いた……。ハルバード使いのケイって言ったら有名じゃないか? こう言っちゃなんだけど――、どっかでくたばっちまったのかと思ってたよ」


 私とラナさん、そしてコンちゃんはそれぞれに顔を見合わせた。カレンさんが「有名」と言ったが、皆の表情を見る限り、彼について知っている人はいないようだ。つまり、この人はきっとカレンさんたちので有名なのだろう。


「うはっ、驚いたな。こんなとこに自分のこと知ってる人がいるなんて」


 ケイさんは急に自身を誇示するかのように腕組みをして胸を逸らせた。カレンさんの口ぶりから察するに「戦士」として名の通った人だと思われる。


 ただ、彼の態度とは裏腹にどこか視線だけが泳いでいるのが気になった。

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