第58話 もうひとり
「――『幸福の花』ってギルドを訪ねて来たんですけど、ここであってます?」
スピカの後ろにいたのは、彼女よりやや歳上に見える若い男。スピカは彼の容姿よりもまず、後ろに背負っている「モノ」に視線が向かっていた。
男の顔からはみ出す大きさのそれは、革に包まれているが、形状からしておそらく「刃」。長い柄の部分からして「ハルバード」と呼ばれる武器と思われた。
スピカは立ち上がると、男から数歩距離をとって改めてその姿を確認する。濃い茶色で肩にふれるくらいの男性にしては長い髪。背丈はスガワラよりやや高いだろうか、肩幅が広く、服の上からでもよく鍛えられているのが見てとれた。
男の所作と表情からはまったく敵意が感じられず、スピカは警戒を解く。そして、彼の第一声を改めて振り返っていた。
「はっ! ひょっとして入団希望ですかっ!?」
「あー、ですです! やっぱここが『幸福の花』であってるんですよね? 自分は――」
「大変ですっ! 今はユタタタさんがいません! とっ、とりあえず、ラナさんにお伝えしなくては!」
男の話はスピカの大声にかき消される。そして、スピカは中に案内するでもなく、彼をその場に放置したまま、慌てた様子で酒場の中へと入っていった。
「……あっーと、自分――、ここで待ってたらいいんだよ……な?」
男は自身に問い掛け、その場に立ち尽くしていた。すると、彼の目の前をひらひらと蝶が通り過ぎていく。
「蝶……? あー、そっかそっか。お前の昼飯の邪魔しちまったのか。すまんすまん。こっちは気にせず、飯の続きをしてくれや」
花壇の周りを舞う蝶に話しかける男。ふと誰かに聞かれていないか気になったのか、首を左右に振ってあたりを確認した後、大きく息を吐き出した。
「なぁ、聞いてくれよ、チョウチョさんよ? 人とギルドって『巡り合い』だと思うんだ? 自分はその巡りが悪くって悪くって……」
『ここは、合ってたらいいだけどな……』
彼が酒場に視線を戻すと、扉がゆっくりと開いた。ラナンキュラスが姿を見せ、笑顔で軽く会釈をする。
「うおっ、超キレイな人」
「あらあら……、ギルドの入団希望と聞いたのですが――」
「ですです! お姉さんもギルドの人ですか?」
「ええ。ただ、今はギルドマスターが少し外してまして。よければ中でお待ちいただけませんか? すぐに帰ってくると思いますので」
「あー、いいですか? それならそうさせてもらいます」
ラナンキュラスは笑顔で扉を大きく開き、男を酒場の中へと招き入れる。
「ボクはラナンキュラスと言います。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「うす! 自分はケイ。『ケイ・イーグリッド』って言います」
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