第60話 折り紙付き

 アレクシアの隣りにはいくつかの小国がまとまった「連邦」が存在する。各々は国としては独立しているが、言語や通貨は共通しており、往来もほとんど自由らしい。


 この世界では国に関係なく「まもの」が人類にとっての脅威となっていた。連邦でもアレクシア同様にさまざまなギルドがあり、対まものの討伐や護衛といった依頼を請け負っているそうだ。


 なかにはコーグさんのようにフリーの「冒険家」、「賞金稼ぎ」といった国を渡り歩いてそうした仕事を受ける人もいる。


 ギルドや冒険家の界隈では、「実力」がそのまま名声となって広がっていくようだ。



 カレンさん曰く、「ケイ・イーグリッド」は数年前から、こうした界隈で名を馳せていた。ハルバードを豪快に振り、まものを薙ぎ払う姿はその迫力も相まって印象強く、彼の名は瞬く間に広がっていった。


 彼の活動拠点はあくまで連邦であり、アレクシアでの実績はほとんどない。それでも彼の名前だけは国境を越えて届いているようだ。



「ここ1年くらいかねぇ……。ぱったりと名前を聞かなくなって、死んだんじゃないかって噂になってたよ?」


「なはは……、自分はずっととつるんで戦ってました。けど、その相方が怪我で動けなくなっちまって。しばらく活動休止してたってわけです」


「そっか。たしかに『ケイ・イーグリッド』には連れがいるって聞いたことあるねぇ」


「相方は元から戦いが苦手だった。怪我を機にもっと安全な仕事をするようになったのさ。けど、自分にとっちゃが稼げる仕事だから」


 ケイさんは右手で軽くハルバードに触れながらそう言った。歳はおそらく私と同じくらいか、やや下だろうか。その歳で他国に名を轟かすなんて大したものだ。



「しっかし――、どうして連邦でなくてアレクシアなんだい? あんたならどこでも雇ってくれるだろうさ?」


 カレンさんは私を差し置いて勝手に話を進めてくれている。あえて出しゃばる場でもなさそうなので、とりあえずこのまま話を聞いてみよう。


「あっ……と、特に深い意味はないんだけど、空白の期間も長いし、自分のこと知ってる人が少ない方がいいかなって」


「期待が高いと困るって話かい?」


「いやいやいや、別にそーいうわけじゃないんだけどさ」


 彼はふっと大きく息を吐き出すと、意を決したように急に立ち上がって私の方に目をやった。


「今、話したのが大体の事情です! たまたま泊まった宿でここの募集を見つけて運命感じたつうか――、よかったら自分を雇ってもらえませんか!?」


 カレンさんの話から察するに素性ははっきりしているようだ。今の話を聞いていても、人格的に疑うところもないだろう。それに今もっとも望んでいる「戦士」という人材でその実力も折り紙付きのようだ。


 話をしているときの挙動に若干の落ち着きのなさは感じたが――、これが「面接」と考えれば相応の緊張はしているだろうし、特におかしくはない。


「どうする? スガが前向きに考えてるなら、私がそのままこの話をシャネイラに伝えるよ? どうせ本部に戻る予定だしね」


 私はケイさんの意志を確認するよう一度顔を見てから、大きく頷いた。


 コーグさんとケイさん、今日1日でギルド入団の候補者が2名も現れたのだ。

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