第27話 最精鋭

 スピカとアトリアが酒場で談笑を交わしている頃、王都はと賑わいを見せていた。先日、魔鉱石の採掘と経路確保を目的として出陣した王国軍が凱旋していたのだ。


 予定を遥かに上回る早さでまものを殲滅し、先陣を切った部隊は早々に引き上げてきたのだ。

 王国軍の活躍は、アレクシア王国の権威を示すことに他ならない。魔法ギルドや剣士ギルドに頼らずとも、王国の力は未だ衰えておらず――、これを世に、国民に知らしめる結果となったようだ。



 城下にある剣士ギルド「ブレイヴ・ピラー」の本部、ここでも王都へ帰還した王国軍の話題が上っていた。

 ギルドマスターのシャネイラは、まもの討伐に派遣されていた者たちが誰だったのかの報告を受けていた。


「――ハインデル公の指揮の下、アイラ・エスウスにレギル・オーガスタ――、魔導士団のリン・ローレライ……、それに『生きる伝説』ボールガード卿までいようとは――。なんと錚々たる顔ぶれか」


 シャネイラは配下の剣士による報告を受けながら、今名前の上がった人物の1人ひとりを脳裏に浮かべていた。王国の中でも一個人の戦力だけで考えるなら究極の精鋭隊と言えた。

 それを「王国の知将」と名高いハインデルが指揮したのであれば、この短期間での遺跡制圧も頷けようものだ。



 シャネイラが少し間、王国軍の顔ぶれに思いを馳せているとき、部屋の扉がノックされた。音に落ち着きがなく、扉の向こうにいる者の心中を現しているかのようにそれは聞こえたのである。


「開いていますよ? 入りなさい」


 シャネイラの返事の後に、先ほど報告をしていた剣士が扉を開ける。すると、焦った様子で別の剣士が飛び込んできた。


「しっ――、失礼致します! マスター・シャネイラ!」


「どうしました? 騒々しい……」


「もっ――、申し訳ございません。王国軍がまもの討伐から帰還したのですが」

「その報告なら今聞いていたところです。ハインデル公率いる部隊が早々に戻って来たとか――」


「そのハインデル参謀が! に来ておられるのです!」




 ブレイヴ・ピラー本部――、堅牢な要塞を思わせるここの入り口はにわかに騒がしくなっていた。

 「王国の知将」と呼ばれる王国軍参謀のハインデルが突然、数名の護衛を引き連れて姿を現したのである。


 王国を支える重鎮の1人が突然やってきたのだ。ある意味、ブレイヴ・ピラーの剣士たちは敵の奇襲よりも驚いていたかもしれない。

 しかし、それも一時のこと。シャネイラがそこに現れると辺りは静まり返った。



「これはこれは、ハインデル参謀殿。今日はどういったご用向きで? 事前にお伝えいただければ相応の歓迎は致しましたのに――」


 シャネイラはいつも身に付けている鉄仮面を外し、うっすらと笑顔を浮かべてハインデルの元へと歩み寄った。


「騒がせてしまってすまないな、『不死鳥』殿? 大した用ではない。近くを通りかかったゆえな、弟の顔を見て行こうと思っただけだ」



「わざわざ押し掛けなくてもお声をいただければいつでも馳せ参じますが、兄上?」



 シャネイラより少し遅れて――、その場に姿を見せたのはハインデルの弟、「賢狼」グロイツェルだった。

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