第28話 兄と弟

 王国騎士団の制服に身を包んだハインデルとブレイヴ・ピラーの制服に身を包んだグロイツェル。ともに長身の2人が向かい合う姿は、それだけで相応の迫力をもっている。


 身長はややグロイツェルが高く――、体型も互いにがっしりとしているが、前線に出ることはほとんどないハインデルと剣術の達人グロイツェルではその「質」が異なっているように見えた。


「久しいな、グロイツェル? お前があまりにも家に顔を出さないからな。こちらから出向いてやったぞ?」


「騎士団の参謀ともあろう兄上が――、あまり軽はずみな行動は慎まれた方がよろしいのでは?」


「ふん。相変わらずの堅物だな、お前は」

「――ともあれ、いらしたのであればご用件をお話ください。長くなりそうなら場所を変えましょう」


「その必要はない。家に顔を出せ、と伝えたかっただけだ。父も母もお前の心配をしている。たまには兄弟で酒でも酌み交わすのも悪くなかろう?」


「――考えておきます。父上と母上には、兄上から心配無用とお伝えください」


 兄弟はここまで話して、互いに黙り込んだ。その周囲も含めて場を沈黙が支配している。そして、次に口を開いたのは兄の方だった。


「グロイツェル……、その『力』をオレのために振るってみる気はないか? お前がよければ席は設けさせる。お前ほどの男を埋もれさせておくのはこの国にとって大きな損失だ」


 彼の言葉を聞いてグロイツェルは、珍しく小さな笑い声を洩らした。


「よもや、籍を置く組織の――、それも主君のいる前で引き抜きの話をされるとは……。さすがの私も驚きました」


「たかが『剣士ギルド』に収まる器ではないと評価しているのだ。兄であるこのハインデルがな」


「あいにくですが、私はを離れるつもりはありません。それに――、『ブレイヴ・ピラー』が王国騎士団に劣るとも思っておりません」


 グロイツェルの言葉にハインデルはなにか返そうする。だが、その口はにやりと弧を描き、言葉は発しなかった。


「――そうか。とにかく、たまには家に帰ってこい。本題はこっちだ」


 そう言うと彼は踵を返し、出口へと向かって歩いていく。


「次にいらっしゃるときは、事前に連絡を下さいますようお願い致します」


 弟の事務的な台詞にハインデルは小さく右手を上げて、立ち去って行った。



「マスター、兄が大変お騒がせを致しました。代わって私がお詫び申し上げます」


 シャネイラが制する前に深々と頭を下げるグロイツェル。彼女はその姿とハインデルの出て行った先を交互に見たあとに話しかけた。


「頭を上げなさい、グロイツェル。あなたの兄はずいぶんと大胆なお方のようですね?」


「『王国軍はブレイヴ・ピラーに決して劣らない』と――、言葉ではなく、姿勢で見せたかったのかもしれません」


「フフ……、あなたは身内相手でも冷静ですね? 私が認める剣士だけのことはあります」


「ありがたきお言葉。ですが、兄上――、ハインデルにはお気を付けください。私が言うのもなんですが――」

「なにを心配しているのですか、グロイツェル? 我々『ブレイヴ・ピラー』はあくまでアレクシアに属するギルドです。王国を敵に回すようなことなどありませんよ?」


 シャネイラはグロイツェルの言葉を途中で遮り、薄い微笑みを浮かべながらそう言った。

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