第29話 2人の長

 ブレイヴ・ピラーの施設内にある訓練場。今ここでは2番隊の剣士たちが修行に励んでいた。


 屈強な身体をした2人の男が1人の剣士と対峙している。の方は、隊を率いるカレン・リオンハート。


 対する2人は同じ隊の剣士。ともに木剣を両の手に握り、カレンの動きを注視していた。彼女は2本の木剣を左右の手に握り、ゆったりとした構えで相手が仕掛けてくるのを待っている。


「ほらほら、どうした? いつまで睨めっこしてたら気が済むんだい? さすがの私も笑ってしまうよ?」


「――いざっ!!」


 1人の男が一気に間合いを詰めてカレンの元へ踏み込んだ。もう1人はその背中に潜むようにして後に続く。

 2人の男たちは同じ隊に属するゆえの巧みな連携を見せた。剣を振るったあとの隙を互いにフォローしながら、絶え間なく斬撃を繰り出している。


 彼らの剣技、連携は十分に一流のレベルと言えた。しかし――、それでもカレンを捉えることはできない。

 2刀を握ってこそいるが、彼女は一度もその剣を振るっていない。まるで舞踏のように円を描きながら、絶妙な距離で襲いくる剣を躱していた。


 それはまるで、掴もうとするとその手の風圧で逃げていく紙吹雪のよう。傍から見れば、あと一歩深く踏み込めば一撃を入れられる。だが、その一歩を踏み込んだときに彼女はさらにもう一歩分遠くにいるのだ。


 そして――、この近くて遠い距離に痺れを切らし、無理して深く踏み込み剣を振り下ろした瞬間、彼女の姿は男の視界から消えていた。

 片方が無茶な動きをすれば当然、相方もそれにつられて余計に動いてしまう。そんな隙を「金獅子」は決して逃さないのだ。


 カレンの2刀が、ほぼ同時にそれぞれの男の胴と首筋に触れる。なにかが当たったと感じ取れるギリギリの圧で彼女の剣は動きを止めていた。


「――甘いねぇ。連携は悪くないけど、こうも簡単に誘いにのってたらさ?」


 男2人は剣を降ろしカレンに一礼をした。彼女は今ので、すでに5組の剣士を相手にしている。それでも呼吸の乱れすら一切見せずに、次の対戦相手は誰かと視線を走らせていた。


 すると、視界の端に普段ならここではあまり見かけない巨体があることに気が付く。


「グロイツェル!? 珍しいねぇ、あんたがこんなところに顔を出すなんて?」


 カレンは右手の木剣をくるくると手で弄びながら彼の元へと歩み寄った。


「カレン……、剣の指導にしては緊張感が足らんな? もう少し気を引き締めたらどうだ?」


「私をひりつかせるにはまだ未熟な奴が多いんだよ? なぁに、『斬り込み隊』に恥じないようしっかり鍛え込むから安心しな?」


「――それではお前の剣に磨きがかからんだろう?」


 グロイツェルはそう言うと、カレンの横を通り抜けて訓練場の舞台へと上がっていく。


「カレン、たまには私が相手をしてやろう? 上がってこい?」


 グロイツェルの予期せぬ申し出に一瞬、面食らったような顔を見せるカレン。しかし、それは本当に「一瞬」のこと。次の瞬間には不敵に笑ってグロイツェルの方を見つめていた。


「ありがたいねぇ……。ちょうど準備運動が済んだところさ。私もたまには全力を出し切れる相手とやり合いたいからねぇ」

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