第26話 スピカとアトリア

「――そこへ、パララ先輩がしゅばばばばっとやって来たんです! 他にも強そうな剣士さんがどどどっと来まして……」


「……うん」


「おっきな岩が落ちてきたんです! 盗賊らしき人たちは剣士さんが『えいえい!』ってやってました! それから岩が降ってきて――、アビー先生がおっきな声を上げるとパララ先輩がいつの間にか近くにいまして――」


「……盗賊は援軍の剣士様が取り押さえてくれた……? それで岩は?」


「岩は降ってきたんです! アビー先生がヴォルケーノを放ちました! パララ先輩も一緒にです! それで岩がバラバラになって、あたしが小さくなった岩の破片を止めたんです!」


「……ええっと、岩は1つだけ落ちてきたのよね?」


「落ちてきました! アビー先生もパララ先輩もさすがの一言です! でも、あたしもがんばったんです!」


「……とりあえず、最後はスピカも活躍したのね?」


「そうです! これで有名になったら依頼がどしどしやってきますね! くふふ……」


「……あなたの語彙力が絶望的なことだけは理解できたわ」



 昼下がりの酒場「幸福の花」。スピカとアトリアが賑やかに話をしていた。ふたりの様子をラナンキュラスは遠目で微笑みながら注文のアイスクリームを準備している。


 今日は魔法学校「セントラル魔法科学研究院」がお休みの日。スガワラは人員募集の貼り紙を近所の宿屋、武器屋、どうぐ屋に出してもらえるよう頼みに出ていた。

 いずれの店も店主や店員と付き合いがあるため、きっと快く引き受けてくれることだろう。



 ギルド「幸福の花」が活動をはじめて約一週間。このかん、最初の護衛を除いてスピカは依頼を受けていなかった。単独でこなせる小さな依頼をアレンビーとランギスが引き受け、スガワラはマルトーとともに事務的な仕事に専念していた。


 これは、スピカが「魔法使い」ゆえに受注の制限があるからだ。正式な免許を得た「魔法使い」と異なり、見習いはまず、国外での仕事を一切受けることができない。また、単独での仕事もほとんど受けられず、免許を持った者の動向が義務付けられているのだ。


 ただ、スピカは決して悲観的になってはおらず、空いた時間を魔法の鍛錬に費やしていた。彼女の心にはきっと、セントラルで出会った友人たちに負けたくない気持ちもあるのだろう。


 それはアトリアも同様で、スピカに負けたくないという強い気持ちをもっている。魔法学校も後期授業が始まっており、近いうちにまた模擬戦もあるそうだ。


「模擬戦楽しみですね! あたしも皆さんに遅れないようがんばらないと!」


「……私も――、それにも同じ気持ちよ? スピカには負けられないって張り切ってる」


 アトリアの言う「みんな」とは、ベラトリクス、シャウラ、ゼフィラ、サイサリーの4人。彼らはふたりの良き友人でありライバルでもある。そして、多少の得手不得手あれども、彼らが同級生の成績上位を占めているのだ。



 アトリアはここを訪れた当初、スピカに魔法学校の話をすべきか迷っていた。彼女が退学した理由は今もわからないまま。しかし、それがスピカにとって不本意なものだとは察していた。

 そんな彼女にセントラルの話をしていいものかどうか――、と。


 しかし、スピカは自分からずいずいと魔法学校の話を尋ねてくるのだ。そんな彼女を見てアトリアは心底安心するのだった。


 いつも隣りにいなくてもずっと友達でいられる、と。そして――、魔法学校であろうと、ギルドに所属しようと「スピカ・コン・トレイル」は決して変わらない子なのだと。

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