第2章
第24話 王国の知将
スガワラたち「幸福の花」一行が初仕事を無事に終えてから数日後のこと、アレクシアの城下町は賑わいを見せていた。
王国から南にある遺跡へ向けて、騎士団と魔導士団が出陣したのである。各ギルドの混成ではなく、純粋な王国直属のみの部隊は昨今で珍しかった。
魔法ギルドや剣士ギルドに代表される組織は、一定の武力をもつ権利が与えられる代わりに、有事の際に王国からの協力要請に応じる義務を負っている。
また、その義務は組織の大きさによって負担も増えるように決められているのだ。これは各ギルドの負担を均一に割り振る目的がある一方、巨大になり過ぎた組織の力を削ぐ意味合いも込められていた。
もちろん、王国は他国の侵攻や国内の暴動といった「万が一」に備えて直属の戦力をなるべく温存しておきたい意図もある。
こうした事情から、王国騎士団と魔導士団のみで編成された部隊が遺跡に蔓延る「まもの」掃討へ向かうことはあまりないのであった。
「ハインデル参謀殿が指揮を執るそうだぞ!」
「あの『知将』ハインデル様がか!?」
「たまには王国の力を見せつけてほしいよなぁ? 最近は騎士団の武勇もさっぱり聞かなくなっちまったもんな?」
「うちのガキなんて『将来は剣士ギルドに入る』なんて抜かしてやがるんだぜ? 騎士団の威厳ってやつをここらで示してほしいもんだ」
王国軍の出陣で盛り上がる城下町を見下ろす長身の男がいた。ブレイヴ・ピラーの一番隊の隊長を務めるグロイツェル。「賢狼」の異名をもつ、ギルドの「ブレイン」ともいえる存在だ。
「――王国の動きが気になりますか、グロイツェル?」
彼の背中に話しかけたのは、ギルドマスターのシャネイラ。鎧と鉄仮面に身を包み、話し声もどこか機械のような感情のないものに聞こえる。
「これはマスター……、気付きませんでした。ご無礼をお許しください」
シャネイラを敬愛する彼は振り返って頭を下げようとする。だが、シャネイラが手を翳してそれを制した。
「昨今は、まもの討伐の先陣はどこかのギルドに一任されるか、混成部隊を編成するかのどちらかでした。王国軍が自ら先陣を切る――、それどころか彼らのみの討伐隊とは本当に珍しいと思いまして――」
「フフ……、彼らは国の威信を背負っていますからね? ギルドに任せきりで表に出てこないとなってはその力を疑われると思ったのかもしれません」
シャネイラは仮面越しにグロイツェルと同じ方向を見つめていた。それは王国の南――、まもの討伐隊の目的である遺跡のある方角だった。
「――気になりますか? 部隊の指揮を執っているのはどうやら『知将』ハインデル公のようですからね?」
シャネイラの問い掛けにグロイツェルは、ほんのわずかな間を置いてから答える。
「あくまで『王国の動き』として気には留めています。ですが――、それ以上も以下も私にはありません」
「そうですか……。王国軍のなかでも彼の手腕は相当なものと聞きますからね。あなたのお兄様は」
王国軍参謀の1人、ハインデル・ロウ。王国の知将の異名をとる彼は、ブレイヴ・ピラー1番隊を率いるグロイツェルの実兄なのだった。
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