第5話 呼び名
「あの――、私のこと『アビー』でいいです。私も『スガさん』と呼びますので」
公演の準備を終えて一息ついていたところ、アレンビーさんに話しかけられた。
「戦術的なお話です。あだ名で呼び合う方が効率がいいんですよ? あなたが戦うかはともかく、今後ご一緒する機会が多くなるでしょうから」
「あたしは『スピカ』でも『コン』でもいいですよ! ユタタタさん!」
――「タ」が多い気がするが……?
アレンビーさんの提案はもっともで、彼女やランさんの力をしばらくの間は借りることになるはずだ。名前を簡略的に呼び合える方がいいのだろう。ただ、私の性格ゆえなかなか敬称を略することはできない。
「わかりました。では……、今後は『アビーさん』と『コンさん』で呼ばせてもらいます」
「ええ、よろしく。ギルドでも任務中はそう呼ばれてますので。ただ、パララには黙っててください。あの子に呼ばれると背中がむずむずしそうなんで――」
「あたしは『さん』でなくて、ラナさんみたいに『ちゃん』の方がいいです!」
「……では、『コンちゃん』。よろしくお願いします」
「はい! マスター・ユタタタさん!」
スピカさん……、もとい「コンちゃん」の私の呼び方は――、きっと言っても変わらない気がするので放っておくことにした。「タ」がこれ以上増えなければ問題ない。
「わっはっは! 僕がスガさんと最初に会った時も『ランさん』と呼んでくださいと言ったでしょう? 案外、呼び方って大事なんですよ? お互いの距離間を近付けるきっかけにもなりますからね!」
ランさんも笑いながら話に入ってきた。私がまだ未熟ゆえか、彼みたいに年上で頼れる人がいると本当に心強い。
「――というわけで、アビーさんにコンちゃん! この僕、ランさんもよろしくお願いしますね!」
お互いの呼び名を確認し合い、ランさんの言う通りでみんなの距離感が少し近付いたような気がする。
◇◇◇
「お集まりの皆さん、お待たせ致しました! これより『スワロー一座』の奇妙奇天烈! 奇想天外! 奇々怪々な芸をお披露目致します!」
城下町の広場にて大きな声が上がった。簡易な舞台を「要」とするように扇形に大勢の人が集まっている。
人々の視線の先、舞台の上にいるのは先ほどの双子、マクリアくんとアクアさんだ。
「座長さんのお話ですと、1日の最初の舞台はアクアお嬢さん大丈夫みたいなんですよ? ただ、2回目3回目と数を重ねていくごとに滅入ってくるようなんです」
舞台を見つめていた私の横にランさんが現れた。その視線の先にはアクアさん。やはり彼女のことが心配なのだろう。
「あの女の子が気になるのはもちろんですけど――、私はもっと気になることがあります」
近くにいたアレンビー……、もとい「アビーさん」はそう言った。「気になること」とはなんだろうか?
「え……っと、悪いけど私は名前で呼ぶわね、スピカ? あなたも気付いてるんじゃない?」
「はい、アビー先生! もちろんです! あたしもびっくりです!」
「ああ、なるほど……。おふたりの言いたいことが僕にもわかりましたよ」
コンちゃんもランさんもお互いに頷きながら同じ方向を見つめている。アビーさんの視線の先も同じだ。それは舞台に立つ例のふたり。だが、私にはみんながなにに気付いたのかわからない。
「――魔法です」
コンちゃんの一言だった。
「そう、精霊のざわめきを感じるんです。きっとあのふたり、『魔法使い』ですよ?」
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