第6話 舞台
「――きっとあのふたり、『魔法使い』ですよ?」
アビーさんはコンちゃんの言葉を補足するようにそう口にする。
――と、同時に舞台ではマクリオくんがトランプほどのカードを数枚、宙に放り投げた。それらは空中でぐるぐると渦を巻きながら浮かんでいる。
アクアさんがそのカードを指差すと突如、炎を上げて燃え上がった。カードは炎に包まれながら宙を舞い続ける。さらに緑や紫、深紅といったさまざまな色に変色していった。
いくつもの燃え上がるカードは、舞台の上空で一か所にまとまったかと思うと、ねずみ花火程度の「パン」とした音を立てる。そして、それこそ花火のように色とりどりの光となって散っていった。
私と――、観客の人たちも破裂音でわずかに驚かされた後、宙に広がる炎の光に見惚れていた。
私は余韻に浸るが如く、光が儚く消え去るところをじっと見つめていた。それもきっと観客と共通していたのだろう。炎が完全に消えてなくなったと思ったとき、大歓声と拍手が巻き起こった。
「すごいです! 魔法を使って芸をするんですね!」
「――みたいね。意外とやるじゃない」
コンちゃんは目を輝かせている。隣りに立っているアビーさんも楽しそうだ。
たしかにここは魔法が当たり前に存在する世界だ。私が現代で見てきた大道芸なんかではまるで驚くに値しないのだろう。そんな世界で芸を披露するとなれば――、当然、一般的な魔法以上の「驚き」が求められるのだ。見世物に魔法を取り込むのはある意味、当たり前の発想なのかもしれない。
――とはいえ、アビーさんやコンちゃん、それに集まった観客の反応を見るとそれなりに珍しいものだったことが窺える。
私がそんなことを考えている間にも、マクリオくんとアクアさんは舞台をところ狭し駆け回っていた。宙返りや側転といったアクロバティックな動きを軽快にこなしていく。そこに、まるで特殊効果を付与していくように旋風が巻き起こり、炎が立ち昇る。
護衛の依頼を受けてやって来た私だが、いつの間にか彼らの舞台に釘付けになっていた。それはきっと一緒に来たみんなも一緒なのだろう。
コンちゃんは観客同様、芸の1つひとつに驚き、大はしゃぎをしていた。ランさんも「ほほー!」とか「ははー!」と繰り返しながら楽しそうに舞台を見つめている。
アビーさんは静かだが、穏やかな表情で時々、感嘆の声をもらしていた。
マクリオくんとアクアさん――、ふたりの芸は交代を挟みながら約30分ほど続いた。傍から見る分にはアクアさんにそれほど緊張の色は見えない。この調子なら次の上演先でも問題なさそうだ。
催しの演目が一通り終わり、スワロー一座は簡易な舞台の上に並んで大きく一礼をする。その姿に観客たちは惜しみない称賛の言葉と拍手を送るのだった。
舞台を終えた後は慌ただしかった。まだ興奮冷めやらぬお客と余韻を残したこの場所で手早く後片付けをする。もちろん、これの手伝いも私たちの仕事の1つだ。
次の目的地は城下町から離れた辺境の村。なかなかタイトなスケジュールが組んであるようで、私たちも急かされるように荷物を馬車へと積み込んでいく。
その過程で私はアクアさんの様子を窺っていた。舞台の上にいるときはとても晴れやかな表情をしていたのだが……、ひと仕事終えた後の彼女の表情はなぜか曇り切っていた。
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