第22話 舞台を終えて
スワロー一座の公演は、拍手と歓声に包まれて幕を閉じた。舞台の中央に立つアクアさんは客席へ向かって何度もお辞儀をしながら、その光景を目に焼き付けているように映った。
最初、私は彼女の披露する芸を祈る気持ちで見つめていた。しかし、時が経つにつれていつの間にか、ただただ次の芸を期待するようになっていた。
まったく危なげのない動き。羽でもあるのかと思う軽い身のこなし。そこには、緊張と不安で押し潰れされそうになっていたアクアさんの姿は微塵もなかった。
ふとマクリオくんの言葉を思い出す。
『――アクアはすごいですよ。練習の時なんかは僕よりもいい動きをするんです』
彼の言葉に一切の脚色はなかったようだ。今、私が目にした姿がきっと本来の姿なのだろう。
本日予定されていた公演は今ので終わった。空は茜色に染まっており、もう一時すると夜の気配が漂ってくる時間。
私たちはスワロー一座を手伝って後片付けをしている。皆の表情はとても晴れやかで、1日の仕事をやりきった達成感と――、なによりアクアさん主役の舞台を無事、成功で終えられたのが大きいと思われる。
「いやー、いい舞台でした! 依頼のついでに
馬車の荷台に荷物を積み込みながらランさんと言葉を交わす。
「でも、あたしたちの仕事はまだ終わっていません! 城下まで無事に皆さんを送り届けるまでがお仕事ですよ!?」
コンちゃんも積み込みを手伝いながら元気よく話しかけてきた。「家に帰るまでが遠足」と幼い頃によく聞かされたものだ。
「わっはっは! コンちゃんはしっかり者ですね! さすがはギルド『幸福の花』の最初の団員だ!」
「ほらほら? 大声で話してないでもっと手を動かして? 日が暮れるまでにここを出立する予定なんでしょう?」
アビーさんが私たちをたしなめる。しかし、その顔には微笑みが浮かんでいた。彼女もきっとアクアさんの舞台が成功して嬉しいのだ。
あらかた片付けが終わり、村を出る準備が整った。コンちゃんの言う通りで私たちの仕事はまだ終わってはいない。だが、ランさんの話によると帰りの道は人の往来も多く、安全な道らしい。
私は腰に下げた短剣に手を触れ、このままこれを使わずに今日の依頼を終えられるよう願っていた。
そのとき、背中から声をかけられる。
「あの――、スガワラさん。きっとアクアが上手くやれたのはあのときの助言のおかげだと思います。本当にありがとうございました!」
後ろにいたのはマクリオくんだった。彼の表情は今日はじめて見る――、「安堵」が全面に出たとても穏やかものになっている。
「いいえ。お力になれたのならなによりですが――、きっと、マクリオくんが自分の言葉で伝えたから響いたのだと思いますよ? 私では同じことを言ってもきっと心に届きませんから」
「僕は誰よりも妹を大事にしているつもりでした。いえ……、今でもそうだと自信をもって言えます。でも、だからこそ気付けていなかったんだと思います。まさか護衛の人に教えられるなんて」
「私は、皆さんを守ってあげられる力は全然ないんですよ? ですから、マクリオくんの言葉を聞いてホッとしました。私も今日、ちゃんと『仕事』をできていたんだなって――」
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