第81話 魔法使いたち
「『黒の遺跡』内で交わる場所が確認できたのはおそらく初めてです。至急、指揮官へ伝えるべきですね」
王国魔導士のリンは仲間の1人に伝令を頼んだ。魔法の写し紙を使って即座に連絡するのも可能なのだが、それは緊急事態に備えてとっておきたいのだろう。偶然合流したカレンの隊とレギルの隊の面々はそれぞれに周囲の警戒をしている。
「改めて――、北側から先行して来たカレン・リオンハートだ。堅苦しい言葉使いは苦手でねぇ……。とりあえず、よろしく頼むよ」
「レギル・オーガスタだ。こいつら引っ張って東側から入って来た。まさかこんなところで『金獅子カレン』様に会えるたぁ、光栄だぜ」
2人は隊を代表して名乗り、カレンは剣を収めて右手を軽く拭った後に前へと差し出した。レギルはその手を見てにやりと笑ってからしっかりと握る。
「『レギル・オーガスタ』の名は聞いたことあるよ。王国騎士団でも相当な使い手だとか?」
「ああ、俺様は『最強』だからな。そっちは今日何匹狩った?」
「――さぁてね? 必要な分だけさ。数える趣味はないんでね」
互いに握った手を離さず、視線をぶつけ合う2人。好戦的な目を向けるレギルに対してカレンも一向にその目を逸らそうとはしなかった。
そこに、「パン!」と渇いた音が響く。2人の間に割って入るようにリンが現れ、顔の高さで大きく手を叩いたのだ。
我に返ったように手を離すカレン。レギルは手を引っ込めた後にリンの方を睨み付けていた。
「――失礼致しました。私は王国魔導士団のリン・ローレライ。今、外へ使いの者を走らせました。申し訳ありませんが、指示があるまでこちらで共に待機していてもらえますか?」
カレンはリンの申し出を受け入れ、隊の仲間たちに周囲を警戒しつつ一旦の休憩をとるよう伝えた。同時に「リン・ローレライ」の名を頭の中で反芻する。彼女もまた王国で名の通った魔導士だからだ。
◇◇◇
ラナンキュラスたち「幸福の花」は、コーグとケイを先頭にして南側の入り口から未踏破の領域へと足を踏み入れていた。中は分かれ道が多く、王国軍や他のギルドの部隊と分担して調査を進めている。
「――と、オレの機転によって難を逃れたわけだ! どうです、ラナンキュラス殿!? このコーグがいればまものなど恐るるに足りませんぞ!」
コーグはきっと嘘ではないのだろうが、明らかに話を盛った感のある自身の武勇伝を語りながら先頭を歩いていた。
「コーグ、いちいちラナ様に同意を求めないでもらえる? それに今の話はさっきも聞いたわ。もう少し集中してもらえないかしら?」
後ろから不機嫌を少しも隠そうとしないアレンビーの声が飛んできた。コーグの自慢話に辟易している様子だ。
一方のラナンキュラスは微笑みを浮かべ、一見すると彼の話に耳を傾けているようだが――、ひょっとすると右から左に抜けているだけかもしれない。
「わっはっは! コーグはみんなが暗くならないよう気を使ってくれているんですよ!? ただ、もう少ーしだけ気を引きしめてくれるとありがたいですね!」
果たしてランギスが言ったような意図がコーグにあるのかはわからない。ただ、彼は場の空気を沈ませないようにしつつコーグをそれとなく窘めるのだった。
「スピカ? どうした、さっきからだんまりで? さすがのスピカでもコーグの自慢話に飽きてきたってか?」
ケイは少し前から口をほとんど開かないスピカに話しかけた。口角をかすかに上げた彼女の表情から決して沈んだ雰囲気は感じられない。――とはいえ、コーグの話にうんざりしているかといえば、そうでもなさそうだ。
「気配を探っているんです! 場所までは特定できませんが……、そう遠くないところにいると思うんです!」
スピカの言葉を聞いてコーグはピタリと話を止める。どうやら彼はまものの気配をまだ察知できていないようだ。
「コーグ、気付いてないわけじゃないわよね? この通路がこのまま一本道なら、先できっと出会うわよ?」
「――ですね。ボクもそろそろ切り替えないといけないかもです」
アレンビー、ラナンキュラスもスピカ同様にまものの気配を遠くに掴んでいるようだ。彼女たちの台詞を聞いてケイはひとつ、唾を飲み込む。
『たははっ……、うちの魔法使いたちはおっかないなぁ』
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