第80話 意外な遭遇

 朝方から開始された遺跡への侵攻。1日で一番陽が高く昇る頃、各所で動きが見られた。それは、各部隊が安全とされる調査済みの区域を抜け、未踏破の区域に侵入を始めたゆえ。


 遺跡内は複雑に入り組んでおり、分かれ道も多いため投入される小隊の数も多くなっている。一部ではまものとの交戦によって負傷者が出ており、救護隊の動きもにわかに活発になろうとしていた。



「ハインデル様! 遺跡内での戦いが激化している様子です。外を守る部隊の一部を応援に出せませんか?」


「ならん。どうあっても周辺の守備だけは定数を維持しろ。退路を断たれれば中へ入った者たちは終わるぞ?」


 ハインデルは最初から遺跡内へ侵攻する部隊と周辺を守る部隊を明確に分けていた。その間に融通はなく、それゆえに内部の戦況に対して、外を守る部隊は暇をもてあます歪な状況が生じているのだ。


「ほっほっほ……、ハインデル様は動きませんな?」


「当たり前だ。半端な指揮官ほど人を動かし策を変えたがる。要はどの程度先が見えているかだ。想定内のできごとで策を変える必要はなかろう」


 ボールガードは返事を聞きつつ、彼の表情を確認する。ハインデルの表情には最初から一切変化がない。それはおそらく今ここで起こっていることが彼にとってすべて想定の範囲内だからなのだろう。




◇◇◇




 2本の刃は美しい弧を描いて交差した。2mを超える大きな黒いまものは次の瞬間、意志をもたぬ巨大な塊となって地面に崩れ落ちる。


「ふぅ……、ここは今ので最後かねぇ? 図体がデカいやつは嫌いだよ。ちょっと斬ったくらいじゃ倒れやしないからね」


 北側の先頭をいくカレン率いる部隊。未踏破の区域を突き進み、開けた場所で大型のまもの数体と交戦していた。広い空間ではパララの高火力魔法が如何なく力を発揮し、残った敵をカレンが斬り捨てたところだ。


「この先も――、道が2つに分かれています。後ろへ伝令を出さないと」


 パララは周囲を見渡し、奥へと続く2つの道を指差して確認していた。彼女の同僚の魔法使いはこくんと頷く。どうやら彼が後ろへ伝える役を担うつもりのようだ。


「待った! ……、奥からなんか来るよ」


 カレンは真っ暗闇の道の先を顎でしゃくって見せ、先ほど降ろした2刀を改めて構える。隣りにいた部下の剣士も彼女に倣い剣先を暗闇へと向けた。


 パララともう1人の魔法使いは呪文の詠唱準備に入る。4人は道の先から姿を現すであろうを視認すればいつでも攻撃できる態勢で待ち構えた。


「――ったく、楽させてくれないねぇ。次から次へと」


 カレンがこう漏らしたとき、皆が一様に異変に気付いた。なにか――、道の奥から来るモノからざわざわと、話し声のようなものが聞こえてくるのだ。



「おいっ!! そこに誰かいんのかっ!?」



 次の瞬間、若い男の大きな声が響き渡った。壁に反響して、同じ言葉が何度か繰り返し聞こえてくる。


「……今のって――?」

「明らかに、『人』の声です」


 カレンはパララに一応の確認をとった後、大きく息を吸って胸を膨らませた。そして、それを一気に吐き出す。



「聞こえるかいっ!? ブレイヴ・ピラー2番隊、カレン・リオンハートだ!」



 カレンの声もまた反響を繰り返し、暗闇の向こうへと吸い込まれていった。そして、しばらくすると再び若い男の声が聞こえてくる。


「ひゃはっ! あっちにいんのは『金獅子』様みたいだぜ!? まさか中で繋がってるとは思わなかったなあ!?」


 やがて通路から姿を現したのは、レギル・オーガスタ率いる王国軍の小隊。東側の通路を先行していた部隊の面々だった。

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