序章

第1話 最悪

 荒廃した街。降り注ぐ雨は次第に勢いを増している。遠い雲の割れ目から稲光が時折射し込んできた。


 周囲に人の気配はない。ただ、それは――、「目の前」以外にという意味で……。


 私のすぐ前にはラナさんの姿が――、こちらに背を向けて立っていた。そして、彼女の視線の先には、美しい翡翠の髪をした女性が剣を構えている。


 アレクシア王国最強の魔法剣士、「不死鳥」の異名をもつシャネイラ・ヘニクス。



 ふたりはまるで居合いの姿勢に入った侍のようだった。魔法あるいはつるぎ――、どちらかがほんのわずかでも仕掛ける気配を見せた時、きっと私の想像では遠く及ばない戦いが繰り広げられるのだろう。



 これはきっと――、あってはならない最悪のシナリオ。

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