第62話 魔女と不死鳥

「突然押し掛けてすみませんねえ。駄目で元々、私の名前を出したらお会いできるのではないかと思いまして……」


 ブレイヴ・ピラー本部にある応接室、ギルドマスターのシャネイラは仮面を外し、ルーナと向き合っていた。


「お噂はかねがね伺っております。ルーナ・ユピトール様」


「くふくふくふ……、どんな噂か気になるところではありますが――、それはまた別の機会にお聞きしましょうか。今日はお尋ねしたいことがあって参りました」


「あなたが王国魔導士団を退いてから、その消息すら不明と言われていました。こうしてお話できる機会を賜るとは、光栄ですよ」


「それは私の台詞です。王国最強の『不死鳥』、シャネイラ様がわざわざ時間を割いてくれているのだから」


 シャネイラとルーナが互いに尊敬の念を抱いているのは間違いない。しかしながら、ふたりの会話の席は決して和やかな雰囲気とは言えなかった。――とはいえ、険悪な気配とも言えず……、不自然なほどに静かな空気を醸し出している。



「シャネイラ様はお忙しい方でしょうから――、単刀直入にお聞きします。ウェズン・アプリコット、セントラルでスピカと同級生だった女の子をこちらで匿っておられますね?」


 ルーナの質問からシャネイラは彼女のおおよその意思を察する。


「……ルーナ様がお聞きになりたいのは、スピカ・コン・トレイルの退学の事情についてでしょうか? であれば、残念ながらウェズンはなにも知らないものと思われます。少なくとも――、私たちは彼女からなにも聞き出せておりませんから」


「これはこれは――、もう少し駆け引きが必要なお方と思っておりましたが……。あまりに簡単にお答えをいただけて逆に驚いていますよ。もっとも、あなたの言葉を素直に信じられれば、の話ですが」


 シャネイラもルーナも表情こそ変えはしないが、にわかに応接室の空気は怪しくなっていた。シャネイラは、ルーナから多少強引にでも情報を聞き出そうとする強い意志を感じ取っていた。その強引さゆえに敵をつくろうとも……。


「不要な詮索を避けたまでの話です。もし、あなたが王国にいたときと変わらない力をもっているのなら、我々も無意味に争いたくないのですよ?」


「くふくふ……、『王国最強』と名高いあなたがなにを仰るやら。それに――、私が人を前にして十分な力を振るえないことは存じているでしょう?」


 ルーナの言葉に、シャネイラはかすかに口角を上げ小さな笑い声をもらした。この反応にルーナは疑問の表情を浮かべる。


「たしかに――、ルーナ様の噂は存じております。しかし、それが力を『振るわない』のか『振るえない』のかはルーナ様自身にしかわかりえません。少なくとも、ここにあなたほどの魔法使いを敵に回そうと思う者はいないのですよ?」


 シャネイラの返事に、今度はルーナの方が口角を大きく上げてにやりを笑ってみせた。


「くふくふくふ……、まだ『ユピトール卿』の名も捨てたものではない、ということですねえ。信じましょう信じましょう、他ならぬ『不死鳥』、シャネイラ様の言葉ですもの」

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