第74話 偶然?

「オレはアイラ様と共に剣を振るいます。――と言いましてもアイラ様の力の足元にも及びませんが……」

「僕は魔導士団の者です。スガワラさん? と言いましたか。よろしくお願いします。急な招集に応じてもらって助かりますよ」

「わたしも魔導士団所属です。あまり聞き慣れないお名前ですが、スガワラさんは異国出身の方でしょうか?」


 アイラさんの隊は私と彼女を含めて5人、遺跡の中でも今いる位置はすでに調査済みの区域なのだろう。通路の隅に魔鉱石の灯りが接地されており、アイラさんは振り返りもせず、ずんずん前を進んでいく。


 私は同行している王国軍の人たちと簡単な挨拶と自己紹介を交わしながら彼女の背を追っていた。



「――遠足ではないのですよ? もう少し静かにできませんか?」


「「「もっ、申し訳ございません、アイラ様!」」」


 アイラさんは一切振り返らないまま立ち止まってそう言った。すると、後ろに続いていた人たちは慌てて直立の姿勢になり、彼女の背に頭を下げるのだった。


「申し訳ありません、アイラさん。私が話しかけていたので皆さんは仕方なく答えてくれていたんです」


「スガワラさん――、と言いましたか……。たしかにこのあたりは安全な場所ですが、それでももう少し緊張感をもってもらえませんか? 急な要請に応じてくれたのには感謝致しますが――」


「本当に申し訳ない。ですが……、安全なうちにしっかりと言葉を交わしておきたかったんです。いざというとき、お互いに一度も話していないと相手への声掛けは躊躇ためらってしまうかもしれませんから……」


 私の言葉を聞いて、アイラさんはゆっくりとこちらを振り返った。そして、無表情のまま、その視線を私へと向けてくる。


「単なる『おしゃべり』ではなく、戦略的意味合いがあると……」


「戦略的――、とまで言いませんが、打ち解け合えば下手な遠慮も無くなるかと思いまして」


「一理あります。たしかにわずかな迷いが命取りになることもありますから。明らかに戦う人間の身のこなしではありませんが――、あなたなりに私たちに貢献しようとする意思はあるのですね」


「『お荷物』になりたくないだけですよ? 荷物は私が運んでるものだけで十分です」


「あなたの判断は正しい。私は『戦力』としてあなたに期待していません。ならば、『0ゼロ』でいてくれたらいい。マイナスにならなければ十分です」


 アイラさんはほとんどこちらを見ようとしない。言葉を交わそうとする意思もほとんどみられない。先日、会ったときに「口下手」と言っていたから単にそれだけなのかもしれないが……。


 ただ、気になるのは彼女がラナさんの酒場を訪ねて来たこと。あの日は結局、酒場の前まで来て去ってしまったが、あの日私たちは偶然顔を合わせている。それと今、彼女の率いる隊に連れられているのはたまたまなのだろうか?

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