第11話 事故

 皆が昼食を終え、村を出る準備に取り掛かっていた。ここに来るまでの道中と同じで私たちは前を行く馬車にアビーさんとランさん、後ろに私とコンちゃんで乗り込む予定となっている。


 ところが、荷物の積み込みを終えもうすぐ出発の段階になっているにもかかわらず、マクリオくんとアクアさんの姿が見当たらない。ほんの少し前まではこの辺りで姿を見たと思うのだが、私を含め皆が失念していたようだ。


 スワロー一座の人たちが集まって、村へ捜しに行く話をしている。私たちもその輪に加わり、協力を申し出た。



「おーいっ! ノーランさん、大変だっ!!」



 そのとき、村から中年の男性が手を振りこちらに向かって走って来た。私はなにか嫌な予感を感じた。きっとここにいる誰もが同じ予感にかられたことだろう。


 やってきた男性は説明より先について来い、言わんばかり一方を指差して駆け出した。座長のノーラン氏を含めた一団と私たちもそれに続く。


 案内されたのは村の奥――、ちょっとした岸壁のある場所でそこにマクリオくんとアクアさんの姿はあった。

 ふたりとも地面にしゃがんでいて、アクアさんはなにか取り乱している気配すらある。



「どうした!? 一体何事だっ!?」



 ノーラン氏が慌てた様子でそこに駆け寄り、私たちは彼らを囲むようにその場に集まった。

 近寄って気付いたのは、マクリオくんが右の足首を抑えながら苦痛に表情を歪めていること。そして、アクアさんはぼろぼろと涙を流しながらしきりに謝っていることだった。


「兄ぃ、ごめんなさい! どうしよ! 私どうしたら!? ごめんなさい! ごめんなさい!」

「――落ち着け、僕が勝手にしたことだ。アクアはなんにも悪くない」



「ちょっとどいてください! 僕は簡単な治癒の魔法を使えますから!」



 ランさんが人を押し退けてマクリオくんの隣りに座り込む。彼の両手のひらから淡い光が放たれた。前にも一度見たことがある回復魔法の優しい光だ。


 少しの間、私たちもスワロー一座の人たちもランさんの魔法を黙って見守っていた。アクアさんも一番近くで心配そうにその様子を見つめている。


 やがて淡い光は消えて、ランさんはマクリオくんに足の状態を確認している。



「――すごい、痛みがずいぶんと退きました。これなら……っ!!」



 急に立ち上がろうとして彼はふらついてしまった。それを慌ててランさんが支える。


「いいですか? 僕の治療はあくまで応急処置のレベルです。下手に動かすと悪化してしまいますから安静にしていないといけませんよ!」


 ランさんの言うことはもっともだ。無理をして余計に悪くしては元も子もなくなってしまう。だが、スワロー一座の人たちにとってこれは大問題だ。


 少なくとも今日あと1回、彼らは公演を控えているのだ。マクリオくんが披露する魔法と組み合わせたあのアクロバティックな動きを足を痛めた状態でできるとは到底思えない。



「よりによってこんなところで怪我をするなんて……」

「座長……、マクリオが出られないんじゃ――」

「弱ったなぁ。次の公演が控えてるっていうのに……」



 旅芸人の仲間たちは、揃って不安の言葉を述べながら座長のノーラン氏に意見を求めている。



「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 私が悪いんです、私が余計なこと言ったから兄ぃは……」

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