第290話 北の門
サーペントの本拠地は、王国軍とギルド混成部隊によってほぼ制圧された。時はこれより少し遡る。
アレクシア王国の北に位置する城門。街の騒ぎから少し離れたこの場所で、小さな騒ぎが起こっていた。街で同時多発的に起こった暴動から逃れるべく、外へ出ようとした者たちが足止めをくっていたからだ。
外へ逃げるが禁止されているわけではない。ただ、この非常時に普段と変わらぬ――、いや、普段以上に厳しい検問がなされていた。
一刻も早く危険から逃れたいであろう市民たちはこの状況に不安と焦り、あるいは怒りを募らせていた。ともすれば、悪意ある者たちではなく、単なる市民と門兵との間で争いが起きかねない状況。
「――ったくよ、クソめんどくせぇなぁ……。なんで俺様がこんなつまらなぇ場所に回されなくちゃなんねえんだ?」
厳しい検問を遠目に見つめているのは、王国騎士団のひとり、レギル・オーガスタ。「狂剣」の異名をとる騎士団のなかでも極めて異質な……、それでいてかなりの実力者でもあった。
「ハインデル様の命令です。私やあなたが意味なくこんなところに派遣されたとは思えません。あの人の言葉を借りるなら……、『こちらが本命になりかねない』です」
レギルのお目付け役であり、王国屈指の魔法使い、リン・ローレライもこの現場に同行していた。彼女はここに派遣された意図を理解していたが、レギルにあえて説明していなかった。
彼女が話さない理由は2つ。1つは、そもそも話してもまともに聞くかわからない、聞いても理解できるかわからない――、と。レギルの知能をその程度に彼女は思っているのだ。
そしてもう1つは、自身がレギルを「扱う側」と思っているから。使役する側が、される側に1から10まで説明する必要はない。与えられた命令をこなせばそれでいい、そのように彼女は考えているのだ。
あるいは、彼女自身もハインデルの命令に対してそう考えているのかもしれない。
「んで――、俺らはあのピーチクパーチク喚いてる連中を黙らせたらいいわけか?」
レギルは門番と揉めている市民を顎でしゃくって見せた。同じところに視線を送り、リンは小さくため息をつく。
「仮にも王国騎士団ともあろうものが――、冗談でも今みたいな発言は控えなさい。私たちは寄せ集めのギルド連中と違って、品格も重要視されるのです」
「あー、そうかよ。王国民を守るのが騎士団の務め、か? 街で暴れてる連中も立派な『王国民様』なんだろうけどなぁ?」
揚げ足を取るレギルの発言に、軽く睨みをきかせるリン。一方のレギルはというと、あまりに退屈なのか、嫌味に対するリンの反応を楽しんでいる節すらあった。
そこに、同じくここに派遣されてきた王国騎士の男がひとり駆け寄り、小さな声でリンになにかを告げた。
「さて、レギル? ようやくあなたの出番のようですよ? あの人の予想通り、ここが本命になったのかもしれません」
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