第289話 終局

 アイラが先頭を突っ切り、周囲を王国騎士団が制圧していく。徹底抗戦の構えを見せていたサーペントだが、徐々に戦況は王国軍へと傾いていった。


 もはや覆せない戦局にあると悟ったのか、剣を降ろして投降する者も現れていた。「調査」と名目だったとは思えないこの戦いは、今、発端の地から終息に向かおうとしているようだ。


 アイラは血に濡れた剣を拭いながら、壁の向こうを見通すかのように振り返っていた。


「――どうやら外も治まったようですね……。さすがは名のあるギルドの精鋭、といったところでしょうか」




 サーペントの本拠地を制圧し、アイラがの様子を気にしたのとほぼ同じ頃、彼女と呼吸を合わせるように、中の様子を気にするものがいた。それは、カレン・リオンハート。

 双子の剣士アイネとクライネに苦戦を強いられた彼女だったが、片方を仕留めた段階で勝負は決していた。逆上したアイネの凶刃も1人では到底、金獅子には及ばず、斬り捨てられたのだ。


「カレン様。あの双子を相手取り、さらには敵の弓兵まで誘い出して仕留めるとは……。恐れ入りました」


 カレンの側近、ブレイヴ・ピラー2番隊の副長を務めるサージェは、周辺の制圧が終わったことを告げに来ていた。カレンは肩の傷の止血をしながら彼の報告を聞いている。


「周りが上手くやってくれたからさ? もちろん、2番隊お前たち含めてね。やっぱあれだねぇ……、腕の立つ魔法使いは敵に回したくないよ」


 サージェはちらりと周囲に目をやった後にひとつ、こくんと頷く。彼もカレンの言いたいことが理解できているからだ。


 敵戦力でもっとも厄介と思われた双子の剣士をカレンがひとりで抑え込んだこと、さらには周囲に潜んでいた弓兵を洗い出せたこと。この2点が外の戦局を決定付けたのは間違いない。


 ただ、カレンを筆頭としたブレイヴ・ピラーの剣士たちが自分の戦いに徹しられたのは、「やどりき」と「知恵の結晶」、魔法ギルドの2大巨頭からの応援が大きかった。


 サーペント側にもそれなりにいるはずの魔法使いの援護を彼らは徹底的に遮断。剣士たちが中心で戦うなら、その外周を完璧に守っていたのだ。

 カレンの戦いも、自身の部下と魔法ギルドの応援に絶対の信頼をおいていたがゆえにとれた方法なのだ。そうした意味では、魔法使いこそがこの戦いの影の功労者といえるかもしれない。



「しかし、カレンさま。サーペントにはもう数人、危険視されている剣士がいたかと思うのですが……、ほとんど中にいたのでしょうか?」


「どうだろうねぇ……。あっちの先頭はあの『アイラ・エスウス』だろう? ちょいと腕が立つくらいじゃお話になんないと思うけど。でも、違うんじゃないかな?」


「違う――、と仰いますと……?」


「いくらかとんずらしてる奴らがいるってことさ。ここにいるのが全部じゃないって話だよ?」


 カレンの言葉を聞いて、目を白黒させるサージェ。先に逃げ出している連中がいる、ましてやそこにサーペントの中心人物も混ざっているかもしれない――、にもかかわらず、隊長はなにを悠長にかまえているのか、と。


「サージェさ、おかしいと思わないかい? ブレイヴ・ピラーうちの部隊をほとんど私に任せてさ、一番おっかないのがここにいないんだよ?」

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