第8話 次の村
次の村に辿り着くまでの間、私の出番はまったくなく、コンちゃんがずっと双子の兄妹と話をしていた。もっとも、言葉を交わしていたのはほとんどマクリオくんで、妹のアクアさんは時々頷いている程度だ。
この村は定期的にスワロー一座が巡業で訪れているそうだ。広場に元々ある舞台を借りて芸を披露する。
娯楽が少ないのか、村中総出かと見紛うほどに人が集まって来ていた。
コンちゃんの話が功を奏したのか、アクアさんに特別緊張している気配はなく、ここでもマクリオくんと息の合った芸を見せてくれた。
「さてさて、スガさん。ここからは僕たちも気を引き締めないといけませんよ?」
隣りに立っているランさんは、舞台に視線を向けながら私に話しかけてきた。
「ここから……、ですか?」
「スワロー一座は城下町を拠点としています。今日はここからさらに離れた村で公演をして、町に戻ってくる予定です」
「つまり――、これから城下に戻るまでが一番お金を抱えてるときなんです。盗賊の類もそれなりに計画を練ってきますから」
アビーさんも話に加わってきた。なるほど――、村を回って手元のお金が増えていくにつれて、それを機に狙ってくる輩もいるわけか。
「僕の経験上ですが、帰りの城下への道はそれなりに人の往来もある大きな道ですから危険は少ないと思います。逆に――、次の村へと向かう道は見通しも悪く、狭いところが続きます」
「ランさんは経験豊富な剣士様ですし、私も護衛の任は何度か受けたことがあります。スピカの魔法の腕もたしかですから問題ないと思いますが――」
「この依頼は『護衛』です。万が一、スワローの方々に危険が及びそうなときは――」
ランさんは短剣の柄をこちらに差し出した。私は彼とアビーさんに視線を合わせて一度、深く頷いてからそれを手に取る。
「わかっています。皆さんのお手伝いはできないかもしれませんが、時間稼ぎくらいはやってみせます」
「あくまで万が一の事態の話ですが……、決して無理はしないでください? まぁ、あの魔法闘技のスターがいるわけですからその『
「お任せください。後輩の前で格好悪いところは見せたくありませんから?」
「皆さん、楽しそうですね! なんのお話をされてるんですか!?」
私たちが互いの信頼を確認していたところで、その後輩が元気よく近付いて来る。
「あなたに期待してるって話したのよ、スピカ? この先は気を引き締めていきましょう?」
「はい! 後ろの馬車はお任せください! いざとなったらみんなまとめてお空に逃がしてしまいますから!」
「そっ、そこまでできるの、あなた?」
「えっ――と、わかりません! 途中で落っことすかもです!」
「そう……、そうなる前になんとかしないとね」
「わっはっは! 気を引き締めつつも気負わずいきましょう。スガさんもそれはお守り程度に思ってください?」
私は自身の右手に握られた刃物を見つめる。武器を手にしたのは、ちょうどランさんと初めて出会った「黒の遺跡」以来だ。あの時はサージェ氏から借りて――、結果的にそれが私の身を守ってくれたのだ。
いざという時、相手をわずかでも躊躇させるための道具として手にする。私は短剣を強く握りしめてランさんの言葉に応えた。
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