第47話 冷笑

「いい勝負――、というか、おもしろい試合だったよ? 見ている側は特にね?」


「おう、なかなか血が滾る戦いだったぜ! やるじゃねぇか、筋肉女!」


 準決勝の第2試合を終え、ゼフィラはサイサリー、ベラトリクスに話しかけられていた。


「だったら見物料でも払ってくれないかー? のおかげでマジの金欠なんだよなー」


 ゼフィラは新調した手甲を2人に見せながらそう言った。アトリアとの試合で持てる力を出し切ったのか、彼女の表情はとても晴れ晴れとしている。



「――惜しかったわね? 決勝でやりあえると期待してたんだけど?」



 彼女の背中に声をかけたのは、親友であり、な間柄でもあるシャウラ。それに応えるゼフィラは苦笑いを浮かべていた。


「悪いな、シャウラ。今回はイケると思ったんだけどなー」


 ゼフィラは右手で頭を掻きながらアトリアとの決着の瞬間を振り返る。



 まさに紙一重だった。


 拳の連撃で注意を上に向け、ゼフィラは足払いでアトリアの軸足をさらった。態勢を崩したアトリアに炎の拳を叩き込めば決着――、ゼフィラのシナリオはそう決まっており、事実その通りに進んでいた。


 想定外だったのはアトリアの「足」の強さ。軸足はたしかに宙に浮いた――、がそれはほんの一瞬。彼女はほとんど軸をぶらさず瞬時に態勢を立て直し、反撃の一手を放ったのだ。


 足で仕掛けたゼフィラも当然、次の一撃はわずかながら遅れてしまう。それでも、アトリアの姿勢を崩せれば十分だと思っていた。しかし結果、彼女は


「――まったく、どんな鍛え方してんのよさ? アトリアの足は?」


「……剣術の基礎は下半身だから。ゼフィラの蹴りも悪くなかった。正直、浮かされるとすら思ってなかったから」


「はぁー……、たしかに柱でも蹴飛ばしたみたいな手応え――、いんにゃ、だったもんなー」


「……でも、私の剣がぎりぎり先に届いたけど、ほんの少しでも遅れてたらゼフィラの拳が先に入ってた。冷たい汗掻いたわよ」


「はいはい。勝者になに言われても悔しいだけだってさ」


 ゼフィラは初対戦での敗北以降、いつかアトリアから勝利してやろうと思っていたようだ。だが、今回も寸でのところでそれを逃した。晴れた表情をしているが、仲間たちが思っている以上に彼女は悔しがっているのかもしれなかった。


「――それなら、ゼフィラの仇を私がとったらいいわけね? 期待して待ってなさい」


 ゼフィラの肩に手を置き、背後から声を上げたのはシャウラ。決勝戦は彼女とアトリアとの対戦になる。


「……シャウラ。あなたとの1対1は初めてね?」


「得意な系統は共に水と氷……、どちらが上かはっきりさせようじゃない?」


「……そうね、私が上だって教えてあげる」


 アトリアとシャウラはトーナメントの優勝候補筆頭に名が挙がっていた。つまり――、決勝戦は目立った番狂わせもない多くの者が予想した通りの対戦カードとなった。

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