第46話 奥の手
アトリアとゼフィラによる魔法使い同士の接近戦は、お互いの意地の張り合いのようであり――、戯れのようにも見えた。
今回の試合のルールは、胴体部への魔法の直撃によって勝敗が決まる。危険性を考慮してその威力は問わないとされている。
ゆえに――、彼女たちの戦いも氷刃か火拳のいずれかがその体を捉えれば決着となる。だが、双方ともにまだ有効打を決められないでいた。
「お互い意地っ張りね? こんな戦い初めて見るわ」
「勝ちに拘るより、勝ち方に拘ってるのかな? 確実な勝利を求めるならもっとやり方はあるだろうけど……」
「お前ほどズル賢くないんだよ? オレは好きだぜ、殴り合いみたいでよぉ。こっちまでうずうずしてくるぜ」
どちらを応援するわけでもなく、仲間として――、ライバルとして両者の勝負を見守るシャウラ、サイサリー、ベラトリクス。よく目にする遠距離からの読み合いとは明らかに違ったこの戦いに彼らは釘付けになっていた。
特にシャウラは、この戦いの勝者と優勝を争うことになる。さすがに彼女は接近戦をするつもりはないようだが、それでも両者の手札を知る上で目が離せないでいた。
もう何度目になるかわからないゼフィラが繰り出す小刻みで鋭い拳の連打。彼女の動きは振りが小さく、離脱の速さも相まってアトリアもなかなか反撃を決められないでいた。
一方で、両の拳で隙のない連携技を繰り出すゼフィラだが、アトリアの剣は確実にもその猛攻を凌ぎきる。さらに決定打こそ逃しているものの、その刃は攻めを決して躊躇わない。
普段から表情豊かなゼフィラは今も戦闘的な笑みを浮かべる。一方、いつもはポーカーフェイスなアトリアもかすかに口角を上げ、今この瞬間を楽しんでいるのが見てとれた。
互いに闘志で目を輝かせ、勝負を決めんとする一手を放ちながらも、どこか戦いの終わりを拒絶しているようにすら感じられる。
『守りも固いし、攻めも強い。さすがはアトリアだぜ。ただ、な――』
攻め手を緩めないゼフィラは身を低く構え、アトリアの懐へ踏み込まんとする。アトリアは考えるより先に体が反応し刃を振るう、が……。
突如、アトリアは足元に衝撃を感じる。彼女の頭が事態を理解したとき、その態勢は崩れかけていた。
『こんだけ攻めたら拳が本命って思うだろ? でも――、足だって使えんだぜ! 魔法は出せないけどな!』
ゼフィラは自慢の火拳を振るうと見せかけて、蹴りを繰り出していた。狙いはアトリアの足元。まさに足払い――、彼女の守りを崩して次の一撃を必中とする。
紅蓮の炎を纏ったゼフィラの拳が襲い掛かる。そして――、次の瞬間、ふたりの戦いは決したのだった。
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