第15章

第300話 ぐちぐち愚痴

「ずっと留守番! なんで留守番? 私が留守番する意味なんてある?」


 夜の酒場「幸福の花」、ギルド「サーペント」への強制調査を機に引き起こされた騒ぎから数日が経っていた。

 街は少しずつ落ち着きを取り戻し、これまでと同じ平穏を取り戻そうとしていた。そして同じく日常を取り戻した酒場で延々と愚痴をこぼしているのはアレンビー。その隣りにはパララがいた。


「こっ…、今回は何事もなかったかもですが……、そっ、その――、『知恵の結晶』だって標的にされる可能性があったんです。あっ、アビーの務めだってとっても大事ですよ!?」


 先日あった街の騒動の最中、アレンビーは自身が所属するギルドの本部を守る役割として――、留守を任されていたのだ。どうやらそれが納得いかなかったらしく、パララを捕まえてずっと文句を言っている。


 彼女はお酒を飲んでいないが、傍から見ると酔っ払いが同じ話を繰り返しているように見えなくもなかった。


「この辺りにも『まもの』が現れたんでしょ? ケイとコーグが戦ったんだって? ラナさまを襲ってきた魔法使いもいたんだって? スガさんもしっかり情報伝達に一役買ったって――」


「あっ…、あたしの派遣された区画にもまものがいました。明らかに人為的に連れ込まれたふうで……、きっ、気になります」


「そう! パララだってしっかり戦ってる! なのに! なんで私はお留守番なの!? なんだか自信無くしちゃう……。やっぱりギルドのなかじゃまだ新人だものね……。マスターから信頼されてないのかしら?」


 ひとりで昂り、そして勝手に落ち込むアレンビー。彼女がこうも荒ぶっているのはとても珍しく、友人のパララも、ラナンキュラスもスガワラも目を丸くしていた。


 彼女にとって、街が危険に晒される中、なにもできなかったことはそれほどにショックだったのかもしれない。



「ふふっ、アビー? ひょっとしたら逆かもしれませんよ? 頼りにしているからこそ、知恵の結晶のマスターはあなたを傍に置いておいたのかもしれません」


 ラナンキュラスは注文の品を並べるついでに彼女に優しく話しかける。普段から自信に満ち満ちたアレンビーが落ち込む姿を見て、さすがに放っておけなかったようだ。


「――お気遣いありがとうございます、ラナさま。でも――、それは違うと思います。なんといいますか……、今回、知恵の結晶うちのギルド、いつになく消極的だったんです」


「消極的――、ですか?」


 アビーはあくまで私見と前置きしたうえで話しをした。曰く、知恵の結晶のギルドマスター、ラグナ・ナイトレイは根っからの商人。

 こと「知名度」には並々ならぬ拘りをもっており、名を知らしめる機会は決して逃さない男なのだ。

 王国からの要請で、かつてない規模での「調査」が行われた。サーペントほどの巨大ギルドが実質、1日で崩壊したといってもいいだろう。


 これほどわかりやすく、王国に名を売るチャンスとなる協力要請に対し、ラグナは腕こそたしかな魔法使いを派遣していたが、その数はとても少なかった。


「語れるほどうちのマスターについて私もわかっていませんけど――、なんとなく、『らしくない』とは思ったんですよね……」


 アレンビーの話を少し離れたところで聞いていたスガワラも彼女の意見に賛成だった。あの商人、ラグナ・ナイトレイの行動としては、たしかに「らしくない」と。

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