第20話 信頼

 舞台の主役マクリオくんの負傷、盗賊の襲撃――、さまざまなトラブルに見舞われながらも、スワロー一座の馬車は無事に次の目的地へと到着した。


 併走してくれたブレイヴ・ピラーの剣士やパララさんはさらに遠くへ赴く予定で、ここでの別れとなった。

 ランさんは同じ部隊の人たちと軽い談笑を交わした後、お礼の言葉と別れを告げている。パララさんは騎馬の後ろ側に跨り、私たちへ向けて軽く会釈をしていた。


 さて――、なんとか予定していた時刻に村へと到着できたわけだが、ここで改めてアクアさんの問題が頭を過ぎる。盗賊騒ぎですっかり抜け落ちていたが、ある意味、旅芸人の人たちにとってはの方が問題かもしれない。


 私は馬車を降り、マクリオくんとアクアさんの姿を探した。すると、アビーさんに話しかけるマクリオくんの姿が目に留まった。



「あの……、魔法闘技のアレンビーさんですよね? お姿を見たときからもしやとは思ってましたが、さっきの魔法で確信しました」


「あら? 私を知ってくれているのね。ありがとう」



 マクリオくんの言う「さっき」はきっと、巨大な岩を粉砕したときのことだろう。たまたま合流した部隊の、これまた、たまたまそこにいたパララさんと瞬時に連携しての攻撃――、私も大いに驚かされた。



「それで、あの……、すみません。お聞きしたいのですが、さっきの場面、どうしてができたんですか?」


「えっと……、あんなことっていうと?」


 彼はアビーさんが落下してくる岩を破壊したときのことを話し始めた。


「1人の火力だと壊せなかったかもしれないですよね? でも、もう1人の魔法使いさんは突然来てくれた人だし、話し合ってる暇なんてなかったと思うんです」


「ああ……、そういうこと? 助っ人の魔法使いが知り合いだったのはあるんだけど――、信頼してたからかしら?」


「信頼……、ですか?」


「ええ。あの娘は『パララ』っていうんだけど、私はパララの実力も経験も信頼してる。それは、スピカだって同じ。彼女にだって明確な指示は出してないもの。でも、一言でこちらの意図は伝わると信じてた。事実、しっかり応えてくれたしね?」


「示し合わせたわけでもないのに……、そこまで信頼できるんですか?」


「そうね。パララは同級生だからよく知ってるし、スピカの戦ってる姿もこの目で見てるから。あの状況ならどっちも意図を汲み取ってくれるって信じてた」


「助っ人のパララさんとスピカさんを、理解していたから信頼できたんですね?」


「ええ、簡単に言うとそんなところね」


 マクリオくんはアビーさんの返事を聞いて、少しの間、下を向いていた。なにか考え事をしているように見える。


「ありがとうございます、アレンビーさん。実は……、スガワラさんにちょっとした『助言』をもらっていたのですが、あなたの言葉でより確信をもてました」


 彼はアビーさんに大きく一礼すると片足を引きずりながらその場を後にした。そしてアビーさんは私の視線に気付いたのか、こちらへやってくる。


「あの子になにか言ってあげたんですか? 怪我しちゃったわりにはいい顔して歩いていきましたよ?」


「はい。正確にはアクアさんへの『助言』についての助言ですが――」


「私たちは舞台まで手伝ってあげられませんからね。最終最後は彼女が気付くしかありませんもの」


「気付く――、ですか?」


「ええ。お客はもちろんですけど、ここにいる仲間がどれだけ自分に期待しているかってことにね?」

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