第51話 師の背中
「――退魔剣っ!」
アトリアはシャウラの氷槍にそのまま向かっていった。しかし、直撃する前に木剣を居合いに似た所作で振るう。
「「「魔法が消えたっ!?」」」
ゼフィラ、ベラトリクス、サイサリーは口を揃えた。
前期の締め括り、対スピカ戦にてアトリアが一度使用した「退魔剣」。剣に気を纏わせ、魔法を薙ぎ払う技だが、他の仲間たちはこの技を目にしていなかった。
アトリアにとっても咄嗟にできるかは一種の賭け。失敗すればまともに魔法を直撃してしまう。使いこなす、というにはほど遠くまだ技術も足りていない。
それでも、無意識に体が選択した手段は間違いではなかった。魔力を温存したままシャウラの魔法を防ぐことに成功する。
『……この距離なら、撃つよりも――、叩く!』
アトリアの振り切った刃に冷気が宿る。ゼフィラとの戦いで使った氷の刃を再びここで振るうつもりだ。
一気に刃の射程まで飛び込んできたアトリアに対して、シャウラは次の一手が遅れてしまう。至近距離に迫った相手への攻撃は慣れていないのだ。
氷刃がシャウラを襲う。誰もがこれで勝負が決したかに見えた。しかし――。
「手で止めたのかっ!?」
「いや、違う! よく見ろ!」
「ひえー、まさかあのシャウラがあんな手を使うなんてなー」
見守る仲間たちも含め、周囲の学生たちからもどよめきの声が上がった。遠目からはアトリアの刃をシャウラが前腕だけで防いだように見えたからだ。
いや――、見えたではなく、たしかにシャウラ・ステイメンはアトリアの刃をその腕で受け止めていた。自らの手を氷に包んで……。
「こんな戦い方――、私の流儀じゃないんだけど!」
「……驚いた。さすがに防ぐ手はないと思っていたから」
『……でも――』
アトリアの剣撃は、いつもより明らかに威力が低いようだった。それもそのはず、彼女が振るった剣は右手一本で繰り出されていたからだ。
「うっ!!? 嘘……、もう一手先があったなんて」
シャウラが崩れるように膝を付く。アトリアの木剣を防いだ姿勢のままに――。しかし、彼女の脇腹を別のものが襲っていたのだ。
アトリアが左手に握った氷で生成された小さな刃。その柄は、魔法学校で支給されるスティックだ。
彼女は剣で魔法を扱うが、不測の事態を想定してスティックを腰にぶら下げている。それを抜いてもうひとつの「刃」をつくり出したのだ。
一時的とはいえ――、アトリアが「師」と仰ぐカレン・リオンハートと同じ二刀流を咄嗟の判断でやってみせた。
ワンテンポ遅れて状況を理解した周囲から歓声が沸き起こる。アトリアはそれを涼しい顔で浴びていた。
「痛たた……、まったくもう! また私が2位なわけ!? 悔しい……」
「……私はここを譲らない。たとえウェズンさんが戻って来たとしても――」
セントラル魔法科学研究院、後期はまずアトリアが3回生トップに名乗りを上げたところから始まるのだった。
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