第50話 氷の誇り

「「グレイシャーっ!!」」



 シャウラの巧みな技術が光ったかと思うと、一変してふたりは真正面から氷の中級魔法をぶつけ合う。

 「どちらが上か」――、同属性のシンプルな威力比べを互いに望んでいたようだ。


 双方からほぼ同時に発射された巨大な氷塊は激しい音を立ててぶつかり、粉々に砕け散る。氷の欠片が陽の光を反射させ、戦いの舞台でありながらもどこか幻想的な雰囲気を感じさせた。


『威力は――』

『……ほぼ互角』


 美しい透明の破片をかいくぐり、シャウラは急接近する。いかに射程の延長が可能でも、遠距離ではアトリアに魔法を直撃させるのはむずかしいと考えたようだ。


「ジャイロウォーターっ!」


 シャウラのスティックから放たれたのは水の円盤。さながら透明のフリスビーにも見えるが、その実態は切れ味鋭い光輪だった。

 彼女は2発同時にそれらを発射に、左右にわかれて曲線軌道を描き、アトリアへと襲い掛かる。


「……嫌な軌道、躱しづらい」


 アトリアが選んだのは直進、左右から攻撃が来るのなら前に出て空いた正面を突くつもりだ。ただ、彼女のなかにはその動き自体が誘われたものだとも感じていた。


「……くらいなさい、アイシクルランス!」


 距離を詰めてのアトリアの反撃。シャウラは小さくも強度を集中させた結界を瞬時に展開してそれを防ぐ。


「一点集中で結界を貫く気だったんでしょう!? よめてたわ!」


「……展開が速いし、位置も正確。さすがにやるわね」


 アトリアは防がれた氷槍を追いかけるようにそのままシャウラの至近距離へ踏み込もうとする。


「だからっ! 接近戦をする気はないって言ったでしょ!」


 シャウラは後ろへ跳んで距離をとる。アトリアはそれを追いかける格好になったが――。


 突然、彼女は躓いたのかと思うほど姿勢を低くし地面に手を付く。しかし、それはもちろん転びそうになったわけではなく……。


 アトリアの頭上をシャウラのジャイロウォーターが通過していった。曲線軌道でアトリアを襲ったかに見えた魔法は、そのままブーメランにようにシャウラへと戻る軌道をとっていたのだ。


「さすがね! 後ろに目が付いてるのかしら?」


『……狙いは背後からの攻撃? いや――、私がこれを躱すのは想定していた?』


 アトリアは低い姿勢から勢いのままに一度前転して起き上がる。顔を上げるとシャウラが次の魔法を放とうとしていた。


「アイシクルランスっ!」


 シャウラの魔法を目にした瞬間、アトリアはいくつの選択肢を思い浮かべていた。


『……距離は近い――、けど、ギリギリこれも躱せる? いえ、結界で防げばシャウラの元へ踏み込める……、でもがない』


 刹那の時、脳裏に浮かんだいくつかの選択。アトリアが選んだのは「頭」ではなく、「体」が勝手にとった最適解だった。

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