第240話 詐称

「ケイ……、君はどうしたい? もし皆が納得するようなら、今まで通りここで働いてくれるか?」


「――マスター、お気持ちはとってもうれしいです。でも、ポチョムキンさんの言った通り、組織には規律と信頼が必要です。自分がみんなの信頼に足るかもありますけど……、今後の運営のためにも規律、罰則はきっちりしておくべきですよ?」



 ケイはおそらく――、スガワラが自分を許し、ここに残るよう話してくれると予想していた。他の仲間が仮にそれを許さなくても、彼は頭を下げてでもそうするのではないか、と。


 短い期間だが、それがケイから見た「スガワラ」という男だった。


 弱さ、と言ってしまえばそこまでかもしれない。だが、誰かの希望に添えるよう力を尽くす。自分が背負えるものなら、その責を負ってでもその選択をする。黒の遺跡で突然、スガワラが王国軍に引き抜かれた際にケイはそう感じていた。


 だからこそ――、ここで彼に甘えるのはよくないとも、思っていた。



「ケイ、私の質問に答えてほしい。君がここに残りたいか否か……、今、聞きたいのはそれだけだ」


「いやいや、マスター? 自分がここにいたいって言ったら、そうするつもりでしょ? 誰かが異議を唱えたって、あなたはそれを説得するつもりだ! でも、それは――、今後を考えるとよくないって」


 ケイの言葉を聞いて、スガワラは小さく頷く。心なしか、小さな微笑みを浮かべているようにも見えた。



「『ここにいたい』……、それがケイの希望。それで間違いありませんね?」



「おほん! スガワラよ? 我はケイこの男が嫌いなわけではないが――、この者の言うことは至極真っ当じゃ。今後の組織運営を考えるなら、除名処分もやむなしと思うがの」


「僕も、あまり言いたくはありませんが……、身分の詐称は本来なら重罪です。組織の長としてそれを許すのは、寛容ではなく、甘さだと思いますよ?」


 マルトーはやや言いにくそうに――、そして、ランギスは珍しく、やや厳しめの口調でスガワラに問い掛けた。

 誰もケイに出て行ってほしい、と思っているわけではない。しかし、ここでなにかしらの処罰を下せなければ、組織としての規律、そしてスガワラの「ギルドマスター」としての威厳に関わると思っているのだ。



 2人の話を聞き、スガワラは数秒ほど下を向いて目を瞑っていた。そして、顔を上げるとマルトー、ランギス、そして――、ケイの顔を見てこう言った。


「私も事の重大さは理解しているつもりです。ですが――、問題は、身分の詐称が本当にあったのか? ということです」

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