第33話 私、多忙です
「カレンの踏み込み――、さっきより深くないですか?」
「反撃を警戒し過ぎてはグロイツェルの守りは崩せないと踏んだのでしょう」
「怪我したら、ちゃんとマスターから叱ってくださいね? 訓練で隊長が負傷するなんて笑い話にもならないですから」
リンカは軽いため息をつく。その表情には明らかに「呆れ」が混ざっていた。視線の先にはグロイツェルに猛攻を仕掛けるカレン。
グロイツェルはカレンの連撃に防戦一方となっていた。より深く踏み込んでくる彼女に対して得物の長い武器は分が悪く、今は「耐える」時となっている。
「攻撃は最大の防御」を体現するかの如く、攻め続けることでカレンは反撃の芽を摘んでいる。一手一手を見極めながら隙を窺うグロイツェルだが、なかなか手を出せずにいるようだった。
カレンの刃を力強く弾くが、瞬時に次の刃が襲い来る。その手数は本当に彼女の腕は2本しかないのかと疑いたくなるほど。
「カレン様が……、押しているか?」
「やはり剣の腕ならカレン様が上だ!」
「しかし……、グロイツェル様もあれほどの連撃をよく凌いでいるな……」
2番隊の剣士たちはカレンが優勢と見るや沸き立ち始めた。カレンとグロイツェルの仲に関係なく、彼らは彼らできっと「1番隊」への対抗意識があるのだろう。筆頭の腕はどちらが上か――、それは彼らの大きな関心事の1つのようだ。
「――リンカ? このあとは忙しいですか?」
「えっ? はい! 忙しいですよー。超忙しいです。多忙でもう死んじゃいそうなんですよねー」
「ほう? 救護隊のあなたが忙しいのは私としても看過できませんね。具体的にはどういった内容で?」
「それはー……、もちろんあれですよ! あれ――」
「あれ――、とは?」
「……はい、すみません。大体のことは部下に割り振りましたんで、暇してまーす」
訓練場の舞台に目をやりながら言葉を交わすシャネイラとリンカ。なにかと理由をつけて仕事をサボろうとするリンカだが、さすがにシャネイラに嘘は付けないようだ。
「フフ……、あなたの姿勢は別として――、隊長として部下に仕事を割り振るのは良いことですよ? カレンに見習わせないといけません」
シャネイラはそれだけ言うと舞台に背を向け歩き出した。
「あれ? マスターはもうどっか行っちゃうんですか?」
「ええ。リンカも外してかまいませんよ。もう終わりますから」
「えっ!? ちょっ――、まだふたりとも元気もりもりみたいですけど!?」
リンカは去っていくシャネイラの背中に呼びかけるが振り返らない。戦っているふたりとギルドマスターの背中を交互に見ながら彼女は困惑していた。
『まだどっちもピンピンしてるけど? マスターの思考は全然わかんない……、でもそう言うってことは決着するのよね?』
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