第282話 鉄槌
次々に繰り出される風の刃。ラナンキュラスは敵を中心に円を描きながら、魔法を躱し、あるいは結界で防いでいた。
『いくら下級にしても、これだけ続けて撃てるなんて――』
ミイラ姿の男は、偶然なのか意図的になのか、周辺の民家やお店を背に攻撃を放ってくる。巻き添えを防ぎたいラナンキュラスにとっては、魔法の微妙な調整を余儀なくされていた。
「――ライトニングレイ」
連続して放たれる魔法のわずかな隙をついて、反撃の一手を打つラナンキュラス。雷系の上級魔法を即座に放ち、一撃で勝負を決めようとした。
しかし、雷撃は見えない壁によって多方向へと分かれて散っていく。強力な結界を幾重にも展開し、防がれたのだと彼女は悟った。
「あらあら……、あれほどの手数で攻撃をしながら、すぐに守りに転じられるなんて――」
ラナンキュラスは、わずかだが驚きの表情を見せていた。それは今の一撃で仕留めるつもりでいたがゆえ。それが意外にも結界で防がれたのだ。
彼女は経験上、魔法を躱されることは稀にあっても、結界で防がれたことはほとんどなかった。それほどに魔法の発動が速く、威力も並外れているのだ。
「お口にまで包帯を巻いてるわけでもないのに……、なんにもお話してくれないんですね?」
彼女は、敵の異質さを感じ取り、探りを入れようとした。しかし、相手の男は一切口を開かない。彼女の言う通り、顔の目と口だけは包帯を避けているようだが……。
「こんな状況で襲ってくるなんて――、よっぽどボクが嫌いなのか、どさくさに紛れて『ローゼンバーグ』を消し去りたいのか……、きっと後者の方なんでしょう?」
ラナンキュラスが問い掛けている最中も、相手は一切口を開くことなく魔法を続けている。風を操り多彩な攻撃を続けているが――、彼女にとってそれは無風。一定の距離を保ちながら結界で防ぎ続けていた。
しかし、難なく魔法を遮っていたと思われたラナンキュラスは、突然大きく後ろへと後退した。火力で吹っ飛ばされたとかではなく、明らかに彼女自身の意思で後ろへと下がっていったのである。
「なるほど……、『対魔法使い』の技を身に付けているんですね。まさに魔法使いのための刺客」
そう口にしたラナンキュラスの元々立っていた場所には、ナイフの刃先だけのような刃がいくつも突き刺さっていた。
魔法結界は、魔力によって生成されたものには有効だが、それ以外には効力を発揮しない。それを理解してか、ミイラ姿の相手は、自身の風魔法に物理的な「刃」を乗せて放ってきたのだ。
「もうお話はやめましょうか……。あなたとは長く闘いたくありませんから」
ここまで防御で様子を窺っていたラナンキュラスは、杖を構え爆発的に魔力を増幅させる。危険を察知したのか、敵も幾重もの結界を展開して守りを固めていた。
「耐えられますか……? 『トールハンマー』」
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