第89話 獣たち
「私はレギルに合わせて魔法を撃ちます。あなたは万が一の――、撃ちもらした際に備えなさい」
奇襲ともいえるまものの出現にもリンはまったく動じていない。そして、彼女の見つめる先はレギルの姿一点のみ。
『アレは猟犬……。否、狂犬。動きを把握……。否、掌握して適切な援護をできるのは私のみ。私の視界の中でなら……、好きに暴れなさい』
「ひゃははっ!! 急に大盤振る舞いで歓迎ってかぁ!! 退屈させんなよ、クソ虫どもがっ!!」
レギルは脇差ほどの長さの剣を抜くと、前のめりに倒れないギリギリの前傾姿勢で黒い塊の中へと突っ込んでいく。
レギルの動きは錬磨された剣士の動きとは程遠く、例えるなら「獣」。
異常ともいえる彼の身体能力と強靭な肉体ゆえに可能な我流剣術――、「レギル流剣術」を展開する。
気の赴くままに振るわれる刃。流れを欠く単一的な回避の動き。荒っぽく無駄の多い戦い方だが、彼が扱うゆえにひとつの戦闘体系として成立しているのだ。
『まったく――、何度見ても品性の欠片もなく雑で醜い戦い』
リンは時折、得意とする雷の魔法を放ってレギルが仕留め損ねたまものの息の根を止めていた。
『それでも――、おそらく彼は王国騎士団で唯一、アイラと並び立つ存在』
床と壁、それに自分自身を返り血に汚しながら夢中で狩りをするレギル。そして、レギル本人すら気付かぬところで確実に彼を補佐するリン・ローレライ。
2人の性格的な相性は別として、戦闘面では間違いなく最高のペアといえた。
一方、彼ら王国軍の部隊に背中を預け、遺跡奥へと続くであろう通路から姿を見せたまものと対峙するカレンたち。
仲間の剣士を巻き込まないギリギリの距離までは、パララが遠距離攻撃をくらわせていた。高火力の魔法はあえて使わず、一点集中の魔法で確実に一匹ずつ仕留めている。
「さてと、こっから私らの出番だ! いくよっ!」
近くまで踏み込んできたまもの相手に、カレンと仲間の剣士は刃を振るう。カレンの剣は逆方向で戦うレギルと比較すると、洗練されたより「人間的」な剣技といえた。
一切ぶれのない軌跡を描き、虚空に線を紡ぐが如く2本の刃が敵を切り裂いていく。奇しくも「金獅子」という獣の異名をもつ彼女だが、その剣技は「美技」と呼ぶに相応しい域に到達していた。
パララはフレイムカーテンを展開して一部の敵の侵攻を止めつつ、細かく火球を放ってまものを焼き払っていく。彼女もまた戦場でのみその力を如何なく発揮する「眠れる獅子」なのかもしれなかった。
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