第9話 人気者?
翌日、登校すると教室は新宿ダンジョンの話題で盛り上がっていた。
気になって聞き耳を立てると、なんと販売ゴーレムの話だった。
えっ、もしかして俺が話題になっているのか!?
なんかドキドキしてきた。
しかし、俺が教室に入ったときに誰もそのことを話してこなかったな……なぜだ?
すぐにスマホをポケットから取り出して、動画投稿サイトを見てみる。
ん!? これは……。
有名配信者たちがこぞって、新宿ダンジョンに現れた販売ゴーレムを取り上げて、バズっていた。
もちろん、初級ポーションについての説明もある。
俺がクラフトした物を美味しそうに飲んで効果を披露していた。
流石は有名配信者だ。わかりやすいし、観ていて面白い。
違う違うっ。そうじゃない!
それらを用意したのは俺だ。
投稿した動画がどうなっているかを確認する。
「埋もれている……」
販売ゴーレムや初級ポーションについての投稿動画が多すぎる。
しかも、有名配信者たちが検索結果を席巻しているため、俺の動画が出て来ない。
そして、今も数えきれない配信者たちが販売ゴーレムや初級ポーションについての動画を投稿し続けている。
まあ、いいさ。活動を続けていれば、そのうちに日の目を見るときがくるはず。
それよりも、優先すべきことがある。
販売ゴーレムの敵が現れたのだ。
それは憎き転売屋だ。手に入れた初級ポーションを通販サイトなどで、高額な値段で販売していた。
俺はそのようなことをさせるために、初級ポーションを売るつもりはない。
ダンジョン探索に活かしてもらうためのアイテムだ。
決して金儲けのアイテムではない。
そう思っていると、アプリから通知が届いた。
『販売ゴーレムに転売屋対策の機能が追加されました』
ナイス! 俺はこの機能を待っていた。
内容は、転売行動をとった者に対して今後二度と販売しないようにする機能だった。
『転売屋対策の機能を有効にしますか?』
アプリが『はい』と『いいえ』を表示した。
俺はすぐに『はい』を選んだ。
「おいおい……転売屋……多すぎだろ」
ブラックリストに次々と名前が追加されていく。
人のふんどしで相撲を取りやがって、許さん!
俺が雨後の筍のようにブラックリストに追加される様子をしばらく見ていた。
「呆れた……」
そう呟いて、ブラックリストを閉じた。
後はアプリが精査してくれるので、転売屋を任そう。
ならば、授業が始まる前に販売ゴーレムに初級ポーションを供給しておこう。
周りが喋っている新宿ダンジョンの話題を尻目に、初級ポーションのクラフトに専念した。
****
学校が終わって家に帰ると、すぐに俺は納屋に向かった。
今日は学校で新たなダンジョンへ行こうと思っていたから、早く家に帰りたくて仕方なかったのだ。
装備を整えて、すぐにダンジョンポータルを開く準備をする。
アプリでどこのダンジョンに繋げるかを迷っていた。
それは博多ダンジョンか、大阪ダンジョンかのどちらかだった。
博多ダンジョンは海底ダンジョンとも呼ばれており、光り輝くサンゴ礁が点在して神秘的な光景が広がっているという。
探索者の間では観光名所としても有名だった。
大阪ダンジョンは神殿ダンジョンだ。中世ヨーロッパの神殿に似た内観をしており、これも博多ダンジョンと同じように観光名所になっている。
どちらも行ってみたいダンジョンだった。
考えた結果、大阪ダンジョンへポータルを繋げることにした。
理由は大阪ダンジョンのモンスターの方が、ソロで戦いやすいからだった。
博多ダンジョンはモンスターに攻撃すると、近くの仲間を呼ぶ習性がある。つまり、一撃で倒さないといけないのだ。
それに比べて、大阪ダンジョンはモンスターが仲間を呼ばないため、囲まれて逃げ場を失う危険性はなかった。
早速、ダンジョンポータルを起動する。
いつ見ても、ポータルは神々しい。
見惚れていても、探索できないので、俺はポータルの中に飛び込んだ。
『ようこそ、大阪ダンジョンへ』
出た先は、荘厳な神殿が不規則に混じり合ったダンジョンだった。
白を基調にしており、見たこともない文字が柱に刻まれている。
神聖な感じがするダンジョンで、活気のある関西弁が飛び交っていた。
簡単に言えば、超うるさい。
探索者たちが我先にとモンスターを狩っていた。誰かがモンスターと戦っていても、横殴りで奪い取るほどだった。
もちろん、その後に互いが言い争いをして喧嘩上等だ。
荒くれ者たちが大阪ダンジョンに多いとは知っていたが、予想を上回っている。
やれやれと思っていると、アプリに通知が届いた。
『アプリにアイテムクラフトの機能が追加されました』
『新たなレシピが支給されます』
スマホにレシピが出てくる。蘇生のペンダントの作り方だった。
えっ!? 蘇生ってことは死んだ人を生き返らせるアイテムなのか?
アイテムの名前を信じるなら、蘇生できるのだろう。
俺はこのレシピに驚きが隠せなかった。
死んだ人を生き返らせるアイテムが存在するのか……。
ダンジョン探索では、よく人が死んでいる。俺の親戚の叔父さんも、亡くなっていた。
もし、本当に生き返らせられるのなら、この蘇生のペンダントのレシピにはとんでもない価値があった。
◆蘇生のペンダントの素材
・ミスリル ✕ 1
・魔石(中等) ✕ 1
思ったよりも、必要とする素材は少ない。
しかし、問題があった。
「この素材をドロップできるのは、大阪ダンジョンのボスモンスターだけだ……」
ダンジョン攻略系動画で、観た記憶ではボスモンスターはミノタウロスだったはず。
鍛え抜かれた屈強な探索者が15人で、全滅寸前になりながら倒していた。
それに比べて俺は駆け出しの探索者。さらにソロだ。
果たして俺に蘇生のペンダントをクラフトできるのだろうか。
とりあえず、撮影開始だ!
アプリの『録画モード』を選択して、問題なく撮れていることを確認した。
「どうも、くもくもです! 今日はなんと大阪ダンジョンに来ています。関西弁が飛び交っていて、新宿ダンジョンよりも活気があります。あり過ぎる感じですね。今回のクラフトは、蘇生のペンダントを作るために頑張ります!」
話している最中に俺に襲いかかってきたミニガーゴイルを斬り落とす。
「見ての通り、ここのモンスターは空を飛べます。ミニガーゴイルの大きさは鳩よりも大きい程度なので、比較的倒しやすいです」
俺はドロップ品であるミニガーゴイルの牙を拾いながら話を続ける。
「今回のクラフトは難度がとても高いです。それは素材となるドロップ品を落とすのが、大阪ダンジョンのボスモンスターであるミノタウロスだからです」
襲いかかるミニガーゴイルの相手をしながら、嫌な汗をかいていた。
しかし、動画配信者たるもの……良いシーンを取りたい。それに蘇生のペンダントをぜひクラフトしてみたい!
まずはボス部屋まで目指そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます