第108話 極大
さあ、新しい結界魔法のお披露目式だ。
出席者はヨルムンガンド、一匹。腹部にぽっかりと穴が空いており、そこを砲台がわりに大量の電撃を放ってくる。
俺は視聴者たちにも伝えた。
「これから、さきほど取得した結界魔法でヨルムンガンドの攻撃を防ぎ切れるのかを試したいと思います」
果たして、うまくいくのか。
マイティバリアより、上位の結界魔法なので消し炭にされることはないだろう。
期待を胸に俺はヨルムンガンドを挑発した。
「お〜い、早く電撃を打って来い! まだかー、早くしろ!」
そして、アイテムボックスがミスリルソードを数本取り出して、投擲武器として投げつけた。ステータスの筋力を高めて、全力投げしたので、良い感じにヨルムンガンドの頭に突き刺さった。頭に3本の産毛が生えたように見える。
強面がなんだか可愛くなってしまった。
「うああ、怒った」
俺の遊び心にヨルムンガンドが怒りを露わにして、腹部の砲台を向けてきた。
狙いはバッチリだ。
あっ、そうだ。せっかくだから、一緒に電撃砲を浴びる仲間を呼ぼう。
俺は仁子さんが戦っているフェンリルの群れにアイシクルを放つ。
同じ属性の魔法なので、大きなダメージにはならないけど、敵意を変更することに成功した。
半分ほどのフェンリルが俺に向かって、襲いかかってきた。
「良い感じだ」
フェンリルが俺を取り囲んで食らいつこうとした時、ヨルムンガンドが電撃砲を放った。
「よしっ、ここだ。キュービック!」
俺を中心に立方体の結界が展開される。見た目はガラスのように透明で薄い。
なんだか心許ないけど、マイティバリアより上位の結界魔法だ。期待していいだろう。
「さあ、来いっ」
うおおお、電撃砲を見事に防いでいるぞ。
すごい、凄すぎる!
俺を取り囲んでいたフェンリルたちは、電撃の嵐によって、跡形もなく消えてしまっていた。
それに比べて俺はキュービックに守られて、傷ひとつない。さらにこの中にいると、傷が回復するのだ。
一石二鳥とは、まさにこの魔法を言うのだろう。
電撃砲が収まった時に、俺はリフレッシュ。
ヨルムンガンドは強力な攻撃を連発して、お疲れのように見えた。
これで守りは完璧。
なんて思っていると、視聴者たちが予想通りのコメントを書き込み始めた。
防戦一方では、ヨルムンガンドを倒せないと言っているのだ。
「安心してください。これからちゃんと攻撃しますから!」
俺は、一向に攻撃をやめないヨルムンガンドを見据える。
電撃を帯びた巨体を使って、ぶつかってくる。俺はその度に地底湖の壁とヨルムンガンドに挟まれていた。
そのような状況でもキュービックによって守られているので、快適そのものだった。
「さてと、いきますか!」
俺はフェンリルの最後の一匹と戦っていた仁子さんにキュービックをかける。
「えっ、何!?」
「新しい結界だよ。本気でいくから、仁子さんにもね」
「まさか、くもくも……また恐ろしいことを考えていないでしょうね」
「当たりだよ」
仁子さんは息を呑んだ。おそらく、知床ダンジョンでのファフニール戦を思い出したのだろう。
「今回はあの時よりも、数段違うから安心して」
「もっとやばくなっているじゃない!?」
「ほら、このとおり! 守りは完璧だから」
俺はひたすらヨルムンガンドの攻撃を受けながら、仁子さんに説明する。
この強度なら、間違いなくいける!
「心配なら念の為、大階段に避難しておいて」
「わかったわ。そうさせてもらうわ」
仁子さんは魔剣グラムで、最後のフェンリルを斬り伏せると、脱兎の如く大階段へ飛び込んだ。
心配性だな、仁子さんは……。
俺が何度も丸焼けになって死んでいるからって、今回も同じだと思うのはどうだろう。
あの時は他に方法がなかっただけだ。
今回は……ん? なんてことだ。今回もそうだった。
仁子さんから見たシチュエーションを考えれば、逃げ出すのも納得だ。
視聴者たちも、仁子さんが退避したことに安堵している。
「安心してください。俺はセンシティブなことになりませんから」
今もヨルムンガンドの攻撃を続いていた。
さあ、いくぞ。
精神集中だ。魔力を極大まで高める。
未だかつてない本気を込めるんだ。
それは一点に収束させて、唱えた。
「メルト!!」
いつもとは違う極小の光が点となって、ヨルムンガンドの頭にぶつかった。
その途端、未だかつてない光、少し遅れて轟音が鳴り響いた。
あまりの光に目が潰れそうになる程だ。結界魔法キュービックがなかったら失明していたと思う。
視聴者たちも「目がっ」や「失明する」なんてコメントを書き込んでいた。まあ、文字を入力できているので、大丈夫だろう。
爆発は勢いを増して、ヨルムンガンドが浸かっていた地底湖にまで及んだ。その時、爆発は苛烈さを増した。おそらく、水が分解されて、水素と酸素になって誘爆したのだろう。
つまり、地底湖の大量の水がすべて爆発するための燃料となった。
俺は太陽の中に突っ込んだら、こうなるんだろうということを疑似体験してしまった。
「うおおおおっ! すごいぞ!!」
かつてこれほどの爆発を間近でみた人間がいただろうか。
居たかもしれないが、生きて帰ってこれなかったはずだ。
俺は今、貴重な体験をしているぞ!
視聴者たちも大興奮で盛り上がっていた。
ダンジョン配信を見ていたら、太陽の爆発を体験することになってしまったからだ。まさかのサプライズにみんな喜んでくれた。
しばらく爆発の鑑賞会となった。静まり返ったところで、俺はアイテムボックスにドロップ品が入っていることに気がついた。
ヨルムンガンドの勾玉が二つ。ドロップ増加剤を飲んでいたので、2倍の効果を得ていた。
フェンリルの銀爪はなんと340個。ドロップ2倍の効果を考慮すると、120匹と戦ったことになる。仁子さん一人に結構負担をかけてしまった。
焦土と化してしまった場所ではゆっくりできないので、俺は仁子さんがいる大階段へ移動した。
「やったわね。大階段へ避難しておいてよかったわ」
仁子さんは観戦モードになって、片手に中級ポーションを飲みながら休憩していたようだ。
「すごい熱量だったわよ。ほら見てよ大階段の外側がドロドロになっているし。避難していたここも一時は真っ赤になっていたし。くもくもの結界魔法がなかったら、仁子の丸焼きになっていてもおかしくはなかったわ」
「本気のメルトだからね」
「あれはもう核よ。くもくもは発電所になったらいいんじゃない?」
「ずっとは行使できないよ」
仁子さんからは人間核弾頭という名をいただいた。
「またギルドに恐れられる力を得てしまったみたいね」
「いやいや、俺なんてまだまださ」
「これ以上にメルトの火力を上げる気なの!? 地球は壊さないでね」
「あはははっ」
「笑い事じゃないし!」
視聴者たちからもメルトがこれ以上になったら、本当に目が潰れてしまうと言われてしまった。メルトを極めし者として、頑張っている俺としては残念である。
気を取り直して、俺はレーヴァテインをクラフトするために、必要なドロップ品をアイテムボックスから取り出した。
そして腰に下げている愛剣フランベルジュとも別れの時がきたのだ。
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