第109話 レーヴァテイン

 大階段というクラフトには不安定な場所だけど、ここで行うしかない。

 第五階層はメルトによって焦土と化しているし、その上の階層は絶賛ワイバーン増殖中である。

 俺は視聴者に向けて、クラフトを始めることを知らせる。

 

「では、探索の締めとして魔剣レーヴァテインをクラフトします! 素材は先ほどのボス戦によって全て揃いました」



 スマホのアプリにあるクラフト欄から、レーヴァテインを選択して、『実行』を押した。

 素材は浮かんで、ゆっくりと縁を描くように回転を始めた。それは勢いを増し、光の粒子へと分解されていった。


 そして強い光を発しながら、鮮やかな赤い剣が現れた。

 これがレーヴァテインか……剣身に厚みがあるのかと思ったが、俺の予想は外れたようだ。

 素材となったフランベルジュと同じくらいの剣身の厚みで、少し長いくらいだ。

 より斬撃に特化したような形状をしている。

 しかも、鑑定してみると全属性の威力を倍増させる効果まで付いていた。


 フランベルジュが炎属性のみに倍増効果があったので、レーヴァテインはバランスよく使える剣だと思う。


 早速、クラフトしたてのレーヴァテインを握ってみる。


「ずっしりと重い! えええっ、ちょっと待ってグラムと同じくらいだ」

「そうなの!? こんなにコンパクトな剣なのに! 私にも持たせてよ」

「いいよ。本当に重いから気をつけてね」


 仁子さんにそっと渡すと、彼女はやはりみくびっていたようだ。


「ちょっとこれ重いわ。グラムよりも小さいから余計に重さを感じる」

「これで片手剣だから、両手剣のグラムとは違うよね」

「くもくも、扱えそう? これは10トンくらいあるわよ」

「持てないことはないけど、片手で振り回すのには練習が必要かも」


 俺が持っていたフランベルジュは500Kgと軽い剣だった。

 それがいきなり20倍の重さになったのだ。持ち上げることができても、すぐには扱えるほど、俺は剣の才能に恵まれてはいない。


「これほど重いと、一般の探索者に盗まれることはないでしょうね」

「じゃあ、新宿ダンジョンで人目につくところに突き刺しておいても大丈夫?」

「伝説の魔剣になってしまうかもね」


 まあ、Sランクの探索者なら抜いて持って帰りそうなのでやめておくけど。

 新たな観光名所は断念するとして、俺は仁子さんから返してもらったレーヴァテインで素振りをしてみた。


「くぅ〜、重い。手が痺れる……」

「片手だからね。上にいるワイバーンで試し切りでもする?」

「その度に増えまくるよ。もう第四階層はワイバーンで一杯なのに!?」


 視聴者たちも、新たな魔剣の威力に興味津々だった。

 でも、夕飯の時間が近い。お披露目は、また次の機会でいいだろう。

 視聴者たちにLIVE配信を終了する挨拶をしよう。


「変わったモンスターに襲われて大変でしたが、これでアラスカダンジョンの探索は終わりです。無事に魔剣レーヴァテインのクラフトもできました。この魔剣の性能は次回お披露目します。よかったらグットボタン、お気に入り登録をお願いします!」」


 そう締めくくり、スマホのアプリにあるLIVE配信の『終了』を押した。

 ふぅ〜、今日のモンスターとの戦いは大変だった。深い場所への潜水って結構しんどいのもわかった。1000m以上の素潜りは、これで最後にしたいと思う。


 服もびしょびしょだし、そのまま家の玄関から中へ入ったら、母さんを怒らせることになるだろう。

 でもご安心を! アプリを使えば、さっさと学校の制服に着替えられる。


「八雲くん、ログハウスに帰ったらシャワーを借りていい?」


 仁子さんもずぶ濡れだ。風邪をひかないうちに家に帰ろう。

 俺はアプリの『帰還』を押した。


 瞬間移動で、俺たちの拠点であるログハウスに戻ってきた。


「大丈夫でしたか、お二人とも」

「氷室さん、ただいま」

「見ての通りよ。びしょびしょね」

「そうだと思って、お風呂を沸かしております」


 氷室さんは俺たちにバスタオルを渡しながら言う。

 なんという気遣いだ!

 仁子さんはとても喜んで、バスルームへ歩いていった。


 俺はアプリを使って、装備を解除する。すると、装備を着る前の姿に戻った。

 不思議なことに、濡れている体もきれいに乾いているのだ。

 便利な機能だなと感心していると、アプリの通知が届いた。


『水の試練を達成のお知らせ』

『アプリにドローンの機能が追加されました』

『称号:水を統べる者を得ました』

『新たな試練が解放されました』


 やった! ちゃんと試練を達成できた。

 称号は水を統べるもの者か……一体、どれほどの効果をステータスに与えるのだろう。

 早速セットしてみよう。

 アプリで今のステータスを表示させる。



『称号:風を統べる者』

◆東雲八雲 種族:人間

力  :7567400(+2575700)

魔力 :9765300(+3345500)

体力 :9837200(+1346600)

素早さ:7364500(+3568900)

器用さ:7536200(+2137500)

魅力 :1000000


固有スキル:バードウェイ、風の心得、疾風迅雷



 これがどう変化するか楽しみだ。

 では、新しい称号も追加セットしてみよう。


『称号:風を統べる者、水を統べる者』

◆東雲八雲 種族:人間(天使)

力  :7567400(+6364500)

魔力 :9765300(+6847400)

体力 :9837200(+4455600)

素早さ:7364500(+5847400)

器用さ:7536200(+5767600)

魅力 :1000000


固有スキル:バードウェイ、風の心得、疾風迅雷、無限水源、水の心得、明鏡止水


 うあああ、ステータスの加算がとんでもないことになってしまった。

 加算値が、基本値に迫る勢いだ。

 数字が多すぎて、わけが分からなくなってしまいそうだ。

 ぱっと見、とても強そうなので良しとしよう。


 固定スキルも三つ増えている。

 まだ風の試練で得た固定スキルも扱いこなせてないものがあるのに、さらに増えてしまうとは……やることが山積みである。


 そして、新たに解放された試練の場所である。


「あああ……やっぱりか」


 天空ダンジョンの存在を知った時に、いつかは試練の場となると思っていた。

 これは探索にも一層の力が入るってものだ。

 心を踊らせていると、スマホに着信が入った。

 誰だろう?


「西園寺さんだ」


 俺が電話に出ると、彼女は単刀直入に要件を伝えてきた。


「八雲さん、たった今、天空ダンジョンにあった障壁がなくなりました」

「……そうなんですか」

「はい、いきなりでした。観測をしていましたが、そのような予兆もなくて、いきなりです」

「なぜ、俺にそれを伝えるんですか?」

「それは先走ってもらいたくないためです。多くのギルドが私たちと同じように天空ダンジョンを監視していました。障壁が消えたことをすでに広まっていると思います」

「俺に会合で話したとおりに、探索時期を合わせて欲しいということですか?」

「はい、天空ダンジョンは存在自体が異質です。ある程度情報が集まるまで待ってもらいたいのです」


 すでに探索の準備を始めているギルドがいるようだった。

 出し抜かれるのは嫌だけど、日頃お世話になっている西園寺さんのお願いだ。

 無下にはできず、俺は天空ダンジョンへのトライを一ヶ月後の日本上空に入ったときに決めた。

 そうなると、目先の目標はまず期末テストで一番を取ることだ。ここをクリアしないと、探索者でいられなくなってしまう。天空ダンジョンどころではなくなってしまう。

 期末テストまで一週間を切っていた。

 よしっ、頑張りますか! 俺はアイテムボックスから中級ボーションを取り出して、一気飲みした。

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