第27話 攻防一体

 大階段を降りて、第三層にやってきた。

 ダンジョンの壁を見回して、思わず声が上がってしまった。


「第三層は、アメジストの結晶がいたるところに生えています!」


 マグマの光によって、ほのかに紫色に輝いていた。

 幻想的な光景に暑さを忘れてしまうほどだ。と言っても、我に返るとやっぱりすごい熱気だ。


「第二層よりも熱くなっています。今のところ防火装備によって、耐えれています。最下層である第十層はどれほど熱いのか気になるところです」


 実況をしていると、ちょっと離れたところに燃え盛る毛を纏ったドーベルマンのようなモンスターがいた。

 すかさず鑑定!


◆ヘルウルフ 種族:犬

属性 :炎、毒

弱点 :水、氷

力  :43

魔力 :10

体力 :68

素早さ:90

器用さ:30

硬度 :20


 脅威ではない。

 素早さが高いため、動きを見失わないように気をつけるだけかな。

 鑑定でステータスを見られるので、モンスターの特徴が予めわかるから助かる。


 気をつけるのは、鑑定では見られないところだろう。

 例えばモンスターが持っている特技や魔法がそれにあたる。


 あれこれとじっくりと鑑定している俺に、ヘルウルフが気がついて駆け寄ってきた。

 普通の犬のように尻尾を振りながらではない。威嚇するように尻尾を荒々しく上げている。


 あの様子では懐くようなことは絶対にないだろう。

 俺はミスリルソードを構える。


「ヘルウルフです。硬い魔物ではないので、ミスリルソードで戦います」


 アリスとリオンが書き込みをしてくれる。


『見た目強そう』

『一刀両断だ、くもくも!』


 他の200人以上の視聴者は沈黙を保ったままだった。

 視聴者数は減っていない。う~ん、様子で観続けてくれているのか?


 ヘルウルフに遅れをとっていては、視聴者に失望されてしまう。

 ここは華麗に決めないと!


 接近してくるヘルウルフに向けて、ジャンブ!

 一回転しながら、一刀両断した。


 アクロバティックに倒したぜ。


 書き込みを確認する。


「カッコつけ過ぎw」

「張り切りっているね」


 相変わらずアリスとリオンからの書き込みのみだった。

 他のダンジョン探索LIVE配信では、それなりに書き込みがあったのだが……。

 初LIVE配信だし、こんな感じなのかもしれない。


 アリスやリオンが言う通り、ヘルウルフ一匹に力を入れ過ぎた。こんな戦い方をしていたら、疲れてしまいそうだ。

 次からは普通に戦おう。


 先に進むと、ヘルウルフの群れを発見!


「お~い」


 俺が掛け声を発すると、ヘルウルフたちは一斉にこちらを向いた。

 そして、けたたましい声を上げながら、俺に向かっていた。


 はい、待ってました!

 狭い通路をモンスター大群がやってきた時は、どうすればよいのかを俺は既に知っていた。


「アイシクル! アイシクル! アイシクル! アイシクル! アイシクル! アイシクルゥッ……」


 とりあえず、氷魔法アイシクルを唱えまくる。大量の氷柱を通路一杯に放つのだ。

 これは絶対に躱せない。この魔法を防ぐには氷柱を破壊するしかない。


 だが、魔力や熟練度の高いアイシクルをヘルウルフがどうにかできるとは思えなかった。


「キャイ~ン!」


 甲高い声と共に、ヘルウルフの群れはドロップ品に変わった。


「アイシクル全力攻撃によって、ヘルウルフの群を一掃できました! なんとヘルウルフの牙が25個ゲットです」


 なんて調子にのっていたら、良からぬものたちが集まってきた。仲間の断末魔を聞きつけて、ヘルウルフが次から次へと現れる。

 他の探索者がいないから、モンスターが倒されずにかなりの数が溜まっているようだった。


「アイシクルを放ちながら、ダンジョンの通路を塞いでいるヘルウルフの群れを掘削しながら進みます!」


 イケイケ! ゴーゴー! アイシクル!

 ドロップ品がどんどん増えていく。拾うのが大変なくらいだ。


 第三層をかなり進んだところで、ヘルウルフに前と後ろから挟まれてしまった!

 ダンジョン探索では大変危険なモンスターとの出会い方だ。


 しかし、俺には挟み打ちの優位性さえも、打ち破る氷魔法がある。


「ニブルヘイム!」


 俺を中心に10mを極寒の地へと変える魔法だ。

 すべては凍りつき息の根を止める。

 かなり使い込んできたので、熟練度も鰻登りだ。

 ヘルウルフごときが、俺の領域で散歩することは許されない。


 俺が許可したもの以外は凍りつく世界で、ヘルウルフたちは飛びかかってきた。

 空中で瞬間凍結されて、そのまま地面へ。

 落下した衝撃で、粉々に砕け散った。


 ヘルウルフたちの第一陣の攻撃は、鉄壁の防御によって阻まれた。ニブルヘイムの威力をわかったヘルウルフたちは俺の領域に入ることに二の足を踏んでいた。


「氷魔法ニブルヘイムは、俺を中心に半径10mを凍らせます。魔力を行使し続けると、魔法を維持することが可能です」


 今までは魔力が少なくてニブルヘイム一発だけしか使えなかった。

 しかし、ステータスが上がったことによって、軽く十発以上放てるようになった。


 それで閃いたのだ。ニブルヘイムを行使し続けるという方法を!


 例えば、このまま俺は前進する。それに合わせてニブルヘイムの極寒の領域も前進するのだ!


「俺が歩けば、ニブルヘイムの領域も進むので、ヘルウルフに囲まれてもへっちゃらです! 攻防一体の歩く城塞!」


 俺の領域がヘルウルフを飲み込み、次々と倒していく。

 ドロップ品の回収で大忙しだ。


 第四層への大階段を見つけた頃には、ヘルウルフの牙が500個以上も集まっていた。

 100個集めるつもりだったが、モンスターが多すぎて予想を超える収穫だ。


「ヘルウルフは大したことないモンスターでした。素早い動きをしますが、その前に魔法で倒してしまえば簡単です。では、第四層へ行きます。サラマンダーがいてくれるといいのですが……」


 颯爽と大階段を降りていくと、目の前にマグマの大滝が現れた。

 それは下の階層へと流れ込んでいる。ここを使えば、早く進めそうだけど……さすがにマグマダイブができない。


「見てください。この灼熱の大滝を! おそらく沖縄ダンジョンの観光名所になると思われます」


 自然の凄さに感服だ。ずっと見ていても飽きないくらいダイナミックな光景だった。

 欠点は飛び散ってくるマグマを躱さないといけないことくらいか。


 おっと……大滝ばかり見ていたら、夕飯の時間になってしまいそうだ。

 この階層のモンスターはなんだろうか……。大階段付近にはいなかったので、先に進む。

 すると、天井から翼をバタつかせる音がした。


 マグマのようなコウモリが天井にぎっしりと吊り下がっていた。

 あまりの多さに気持ち悪い。


 避けて通りたいが、道はあのコウモリの大群れがいるところしかなかった。

 鑑定をしてモンスターの強さを調べる。


◆デッドバット 種族:蝙蝠

属性 :新毒

弱点 :なし

力  :13

魔力 :80

体力 :28

素早さ:150

器用さ:120

硬度 :10


 属性は新毒という聞いたことのない単語。おそらく、毒よりも強力なのだろう。

 名前からして噛まれたら、即あの世行きかも!?

 素早さと器用さがとても高い! 空も飛べるから、剣で戦うには相性が悪そうだ。


 それにコウモリは超音波を出して、周りの距離を瞬時に把握すると聞く。

 デッドバットも俺が知っているコウモリと同じ能力があるのなら、剣をいとも容易く躱してしまうだろう。


 俺はステータス上では上回っているが、ゴリ押しをしてもし噛まれてしまったら目も当てられない。


「あの先に群れているデッドバットは、大変危険な毒を持っています。安全を期して、攻防一体のニブルヘイムを行使しながら進みます」


 魔ポーション(小)をがぶ飲みした。これは1個で魔力100まで回復する。

 俺の魔力総量は720なので、全回復するのに個数が必要なのだ。

 初級ポーションと同じように、今の俺には魔ポーション(小)が合わなくなってきていた。

 まあ、上位のアイテムのレシピを得るまで、とりあえずはがぶ飲みでどうにかするしかない。


「魔力が回復したので、ニブルヘイムで突撃します」


 さあ、来い! デッドバットたちよ!

 ニブルヘイムを超えて、俺の元へ飛んでこれるか試してやるぜ!


 極寒の領域を展開しながら、ミスリルソードを鞘から引き抜く。探索に用心するに越したことはない。

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