第26話 初LIVE配信
やってきました! 博多ダンジョンへ!
第三層のボス部屋に近い人気がない場所に俺は転送された。
つい最近、サハギンを見たはずなのに、なんだか懐かしい。
それほど俺のダンジョン探索が目まぐるしいからだろう。
挨拶代わりに、襲ってくるサハギンをミスリルソードで両断する。
これがモンスターと探索者のコミニュケーションだ。
ドロップ品を回収していると、探索者の気配を感じた。それも多い。
彼らが集まっているのは、販売ゴーレムだった。
「販売ゴーレムさん。いつもお仕事ご苦労様です」
遠くから労いの言葉をかける。あの忙しさなら、今日も売上はとんでもないことになっているだろう。アイテムボックスにある魔ポーション(小)の在庫は、永久機関によって今も増え続けているはずだ。
ステータスの魔力がかなり上がっているから、もしかしたら魔ポーション(小)1個だけでは回復が間に合わないかもしれない。
がぶ飲みしている自分を想像して、うっとなった。
魔ポーション(小)は美味しい。それでもあまりにも飲み過ぎるのは体に悪そうな気がする。
最近、父さんが初級ポーションをやたらと要求してくるのだ。もしや、ポーション系に中毒性があるのでは……なんて疑っていた。
多分、父さんは仕事に疲れているだけだろうと思うけど。
ジュースも飲み過ぎると糖分の取りすぎで体に悪いと聞く。そう考えると、程々にポーションを使っていきたい。
まあ、もっと魔力を回復できる魔ポーション(中)や魔ポーション(大)がクラフトできればいいのだが……そう上手くはいかないようだ。
「あれっ、新しいクラフトレシピが届かない」
マジか…。
まさか今、炎魔法のリングのレシピをもらって、まだクラフトできていないからか!?
いつまで経っても、レシピが貰えない。
やはりレシピをちゃんと消化しないと新しいものを貰えないようだ。
なら、さっさとクラーケンを倒そう。
ボス部屋の前は、それほど人はいなかった。
二組のパーティーが待っている感じだ。
俺もその列に並ぶ。ちょっと時間がかかってしまうかもな。
動画LIVEの告知時間に間に合わない可能性が出てきたぞ。
時間をずらすお知らせをしたほうがいいかなと思っていると、
「やあ、また会うたね」
「あっ、先日はどうもです」
「またクラーケンかい?」
「はい」
以前に会ったタルタロスギルドの幹部のおじさんたちだった。
どうやら、前に並んでいる二組はギルドの入団試験を受けようとしているようだ。
俺がソワソワしていたのが伝わったのだろう。
なんと、先にクラーケンと戦えるように取り計らってくれた。
「本当にいいですか!? ありがとうございます!」
「いいと。その代わり、見学させてもらえるかな」
「別にいいですよ」
早く戦えるのなら、そのくらい大丈夫。
なんて、軽く承諾したことを俺は公開した。
理由は、二組のパーティーも見学することになったからだ。
「この兄ちゃん、ばり強かけん参考にしとけ」
ギルド幹部の言葉に受験者たちが、俺を訝しむような目で見る。
うああああ……なんか緊張してきたぞ。
いや、このくらいで取り乱してはLIVE配信なんてできない!
みんなに、ばり強かーって言わせるぜ。
前に入っていたパーティーが出てきたので、早速俺たちはボス部屋へ入った。
大人数で入っていくものだから、出てきたパーティーはびっくりしていた。
よしっ、戦うぞ!
クラーケンはすでにスタンバっていた。
氷魔法のニブルヘイムもいいが、あれは広範囲攻撃だからな。観戦者の方々に寒い思いをさせても心苦しい。
ならば、新たに編み出した攻撃方法だ。
「では、倒しますね」
「おう。みんな、見逃すな」
大きな足をくねらせているクラーケン。
俺は一気に間合いを詰めて、叫んだ。
「アイシクルソード」
決め台詞はLIVE配信に必要なことだ。今のうちに練習しておこう。
ミスリルソードが凍りつき、氷の刃で拡張される。
長くなった剣で一刀両断。
切り口は瞬時に凍りつき、冷凍イカの出来上がりだ。
「終わりました。参考になりましたか?」
「……」
みんな無言で、俺と冷凍イカを見ていた。
あれっ、一撃で倒すように頑張ったのに……なんかまずいことをしてしまったか?
返事がないので、とりあえずドロップ品を回収する。
そんなことをしていると、やっと彼らに反応があった。
「バリ強ってレベルじゃなかと」
「どう……参考にすればいいんだ……」
「何が起こったのか、速すぎて見えなかったんだけど」
「気がついたら、クラーケンが半分になって凍っていたくらいしか」
ギルド幹部を含めて唖然としているので、俺は別れの挨拶だけしてボス部屋から出た。
ステータスが以前の10倍以上になっているからな。びっくりされても仕方ないか。
だからといって、自重する気はなかった。
探索者としてのステータスだから、モンスターと戦う時は十二分に発揮するべきだと思う。
手を抜く理由なんて、どこにもないのだから。
そんな俺の背に向けて、ギルド幹部が言う。
「兄ちゃんの強さなら、ギルドに入る理由はなかとな。いやぁ……納得だわ」
「試験……頑張ってくださいね。では、これで失礼します!」
タルタロスギルドの幹部はそれ以上俺を引き止めることはなかった。
また名前を言わなかったけど、またどこかで会えるだろう。お互い探索者であり続ける限りな。
とカッコつけて納屋に帰還した。
俺だって、たまにはカッコつけたいのだ。なんてな!
目的だった魔石(上等)ゲットだぜ!
なんとかLIVE配信の時間に間に合いそうだ。
すぐに沖縄ダンジョンへポータルを使って戻った。
熱気に満ち溢れた世界にようこそ! 配信時間にギリギリセーフ!
深呼吸をして、アプリの『LIVE配信』ボタンを押した。
「どうも、くもくもです! 今回は初めてのLIVE配信になります。今、沖縄ダンジョンの第三層への大階段前にいます。今日のクラフトは、炎魔法のリングです!」
LIVE配信はぶっつけ本番。
アプリから、どのようなサポートがあるのだろうか。
今までのことを思うに、何かしら手助けしてくれそうな感じがする。
おっ、そうきたか!
俺の視界に視聴中の人数が表示された。
しかも、その下にはチャットまで見える。
ナイス! 相変わらずの神アプリっぷりだった。
スマホを持たずに書き込みを見れるので超楽ちんだ。
ふむふむ、視聴中は2人。
あっ、書き込みまでしてくれているぞ。
誰だろう? 名前を見ると……なんとアリスとリオンだった。
『待ってました』
『初ライブ、頑張れ~』
顔見知りの二人が見に来てくれた。かなり嬉しい!
初LIVE配信には心強い味方だ。
なんて思っていると、視聴中の人数がどんどん上がっていった。
おいおい…どういうことだ!?
えええええっ、ちょっ! 登録者120人に対して、視聴中が223人っておかしくないか!?
こんなことってあるのかな……俺の知る限り、見たことがない現象だ。
しかも書き込みをせずに、俺を見守っていた。
なんだろう……この無言のプレッシャーはっ!
でも、これを乗り越えてこそダンジョン配信者だ。
気を取り直して、視聴者に説明をする。
「今から大階段を降りて、沖縄ダンジョンの第三層へ行きます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます