第25話 再高校デビュー

 急激に身長が伸びてしまったことにより、ズボンの裾を母さんが夜なべをして直してくれた。

 お母様、ありがとうございます!

 シャツは夏服なので、袖を気にすることがなくギリなんとかなった。

 父さんは冬服を含めて買い直しだなと喜んでいた。どうやら息子が逞しくなるのは嬉しいらしい。


 私服もサイズが合わなくなったので、緊急お小遣いを得てしまった。

 大事に使わないとな……。

 まさか、ステータスが上昇したことで、俺の外見まで変化するとは思わなかった。


 おそらく、魅力が10から100になった影響かも。

 もしそうなら、魅力が1000とかになったら、俺はどうなってしまうんだろうか。

 魔改造された自分を想像して……ちょっと恐ろしくなって考えるのをやめた。


 とりあえず高校に行かないと、学生の俺にとっての仕事なのだから。


 クラスの教室前まで来て、今更ながら結構緊張した。

 深呼吸を一つ。

 ドアを開けて、中へ入る。そして、椅子に座った。


 なんだ……いつも通りじゃないか。

 キョドってしまって損をした気分だ。

 たかが背が伸びたくらいで、俺という存在が揺らぐはずはないさ。


 なんて思っていたら、クラスメイトの女子のグループが俺をチラチラと見ていた。

 俺の噂をしているような感じだ。


 いやいや、自意識過剰だ。俺のことなんかで、会話にならないだろう。

 カバンから教科書とかを取り出していると、友人が話しかけてきた。


「おはよう、くもくも! えっ……お前……デカくなってね」

「少しだけ大きくなった。成長期ってやつだと思う」

「マジかよ。いいな! ちょっと立って、俺と背を比べてみようぜ」

「わ、わかったから、引っ張るなって」


 昨日父さんと背比べをしたように、友人とも同じことをする。

 友人は驚きを隠せないようだった。口が空いたままだし。


「俺よりも背が低かったのに……追い越された! どうやって背が伸びたんだ?」

「だから、成長期だって」


 ステータス上昇によって、背が伸びたとはいえない。

 探索者をしていることは秘密なのだ。回り回って、両親の耳に入ってしまうかも知れないからだ。


「成長期、スゲー。しかも、くもくも……カッコよくなってね」

「なんだよそれ」


 俺がカッコいい? クラスの中で、モブ界を邁進する俺にとって、もっとも無縁の言葉だった。


「いや……なんていうか。魅力的になったというか……」

「やめろ。気持ち悪い目で見るな!」


 男に魅力的になったと言われると、背筋がゾッとする

 でも、彼は嘘を言うようなやつではないので、以前よりはイケているのかもしれない。

 背が高くなったし、存在感が増したのは間違いなさそうだ。


「体格も良くなっているし、何かスポーツでも始めたのか?」

「まあな。毎日筋トレをしているんだ」

「マジかよ! 俺もしようかな」


 筋トレというダンジョン探索に明け暮れている。

 今も会話をしながら、沖縄ダンジョンのことを考えていた。


「同じ帰宅部仲間だと思っていたのに、この裏切り者め」

「いや同じ帰宅部だ。家に帰ってからは自由行動だろ」


 そんなことを話していると、授業が始まってしまった。

 今日は体育があった。内容はバレーボール。


 俺は急に身長が高くなったことで、前衛のポジションを任されてしまう。

 いつもは後衛で、いてもいなくてもいい感じなのに……。

 先生が俺の身長を見て、気を利かせてくれたようだった。


 昔の俺なら、アタックすらできなかっただろう。

 しかし、今の俺は体に翼が生えたように軽い。

 トスで上がってきたボールに合わせて、ジャンプしてアタックした。


「えいっ!」


 相手コートに鋭く叩きつけられるボール。

 よしっ、点を取れた。俺、すごい!

 もしかして、人生で初めてスパイクを決めてしまったかも!

 なんて喜んでいると、コート内がざわついた。

 そして、バレーボール部に入っているクラスメイトが押しかけてきた。


「八雲……お前……スゲーな。バレーボール部に入らないか」

「大したことないし。まぐれだし」

「いやいやいや、めっちゃ高く飛んでいたぞ。県大会をいや……全国大会を狙えるって」

「それは褒め過ぎだよ」


 煽ててくれるのは、嬉しいけど俺はバレーボール初心者だ。

 ちょっとスパイクを決めたくらいで、興奮しすぎだって!

 ステータスをセーブモードにしているのに、もしかして人並み以上の力を発揮しているのかもしれない。


 そしてバレーボールの試合は続いた。

 俺は控えめにバレーボールに徹した。しかし相手のアタックをブロックしたり、オープンスパイクを決めるごとに、部活への熱い勧誘がやってきた。


 体育のバレーボールをしただけなのに、俺が意外に運動ができることが知れ渡ると、他の部活からも勧誘される始末だった。

 誘ってもらえるのは嬉しいけど、俺にはダンジョン探索という使命がある。


 部活をやっている暇はない。

 それに勉強もしないといけない。

 ダンジョン探索、部活、勉強という3つを上手くこなせるほど時間もなくて、俺はそれほど器用でもなかった。


 ということで、部活の勧誘を丁重にお断りして、家路につくことにした。

 帰宅部は忙しいのだ。

 そして次の体育ではもっと自重するべきだと思った。



****



 納屋で装備を整えて、心は学生から探索者へモードチェンジ!

 さらにセーブモードを無効化!


「みなぎってきた!!」


 ステータスの恩恵を改めて感じる。

 身の内から、溢れ出す有り余る力。

 足元に転がっていた鉄製のパイプを試しに曲げてみる。


「やば過ぎるっ」


 鉄パイプで蝶々結びができてしまった。

 ダンジョン神なんて呼ばれているらしいけど、今の俺は破壊神の方が適切かも。

 なんて冗談はこのくらいにして、沖縄ダンジョンへレッツゴー!


 昨日は第三層への階段まで探索していた。

 では、続きから頑張ろう!

 繋がったダンジョンポータルに勢いよく飛び込む。


「やっぱり、すごい熱気だ」


 燃え盛るマグマが流れるダンジョンへようこそ。

 防火装備が充実していても、見ているだけで汗が出そうだ。


 さて、新しいレシピはなんだろう。

 ワクワクしていると、アプリから通知がきた。


◆炎魔法のリングの素材

 ・ヘルウルフの牙 ✕ 100

 ・サラマンダーの尻尾 ✕ 50

 ・魔石(上等) ✕ 1

 ・魔石(中等) ✕ 5


 やった! 新しい魔法のリングだ!

 クラフトできれば、炎と氷を操れる魔法使いになれる。


 沖縄ダンジョンに来たかいがあったと思えるクラフトアイテムだ。

 しかし、問題があった。

 魔石(上等)の在庫がなかったからだ。この先で手に入るかがわからない。

 ヘルウルフやサラマンダーは第三層から下へ行けば、出会えそうな気がする。


 やはり動画撮影を始める前に、確保しておくのが良いだろうな。

 なぜなら、今回は登録者100人を超えたことで実況配信をするからだ。

 すでに告知はしてある。


 もし実況中に先に進んで、魔石(上等)が手に入らなかったら、目も当てられない。

 配信時間も迫っているし……う~ん……決めた!

 よしっ、博多ダンジョンのクラーケンを倒して素材を確保してから、この探索を再開しよう。

 俺は一旦納屋に帰還して、博多ダンジョンへのポータルへ飛び込んだ。


 もちろん、出口はボス部屋の近くだ。

 ステータスも以前のクラーケン戦よりも格段に上がっている。

 初実況配信に向けた良い準備運動になるだろう。

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