第24話 魅力100
アイシクルソードとニブルヘイムの組み合わせは、ファイアスライムとの戦いにおいて最強だった。
ニブルヘイムで足止めをして、アイシクルソードでとどめを刺す。
そして、魔ポーション(小)で魔力を回復!
この流れでドロップ品は見る見るうちに増えていった。
ついでにフレイムタートルも倒しておくことも忘れない。
「やっとファイアスライムのコアが500個集まりました! やったぜ!」
探索者がいないダンジョンで叫ぶ。
その声を聞きつけて寄ってくるのは、モンスターだけだ。
襲ってくる敵を屠りながら、話を続ける。
「フレイムタートルの甲羅も100個集まりました。それにミスリル50個を加えて、烈火のブーツをクラフトしようと思います」
周りにモンスターがいなくなったことを確認して、アイテムボックスから素材を地面に出した。
やっぱり数が多いと、圧巻だな。
この素材の山は、俺が頑張ってモンスターと戦った証でもあった。
ずっと眺めていたいけど、またモンスターが寄ってきたら面倒だ。
アプリから、烈火のブーツをクラフト!
素材は光の粒子となって、収束していく。光が収まった時には、黒いブーツが眼の前に現れた。
水炎魔の鎧とお揃いの色だ。
そう思って近づいてみると、所々でマグマのように燃え盛る色が入っている。
良いアクセントになっていてかっこいい!
早速、装備してみる。
「おおおおっ! はい、涼しい! それに疲れが回復する」
ファイアスライムやフレイムタートルを、嫌というほど狩ったから結構疲れていた。
それが初級ポーションを飲んだときのように、それ以上にすっと疲れがどこかへ消えていった。
ダンジョンの灼熱が俺を癒やしてくれている。
素晴らしいブーツだ。こんな高性能なら高校に通学するときにも履いていきたいくらい。
まあ、スニーカーとは違ってめっちゃ目立つ形をしているから先生に叱られそうだけどね。
冗談はさておき、装備が整ってきたことで、沖縄ダンジョンの攻略が近づいたような気がする。
順調、順調!
夕食時間が近づいてきたので、そろそろ動画の締めをして帰ろう!
「今日は水炎魔の鎧と烈火のブーツをクラフトしました。ニブルヘイムの熟練度も上がってきましたし、楽しい探索ができました。明日も引き続き、沖縄ダンジョンの下層を目指していきます。よかったらグットボタン、お気に入り登録をお願いします!」
締めも良い感じで終われた。
俺はすぐにアプリの『帰還』ボタンを押した。
帰ってきました納屋――ホームベースに!
日頃、暑いと思っていた納屋の中も、沖縄ダンジョンに比べれば天国だった。
おっと時間が迫っているんだ。
装備を解除して、家に入った。両親はすでに帰宅しているようだった。
リビングのドアを開けると、カレーのいい匂いが漂っていた。
「ただいま!」
「おかえり、今日も筋トレしていたの?」
母さんがカレーが入った鍋をお玉でかき回しながら、聞いてきた。
「まあね。お腹空いた」
「食べる前に手を洗ってよ」
「はーい」
洗面台で手を洗って戻ると、テーブル上にはカレーライスが置いてあった。
父さんと母さんが俺が来るまで待ってくれていたようだ。
では俺も座って、
「頂きます!」
「八雲はなんで最近になって筋トレを始めようと思ったんだ」
父さんが不思議そうに聞いてきた。
それもそのはず。俺はずっと運動と無縁の生活をしてきたからだ。
別に運動音痴というわけではない。
ただ単に、必要以上に体を鍛えることにメリットを感じなかったからだ。
しかし、今は違う。
探索者としてデビューしてから、体は鍛えた方が良いと思うようになった。
まあ、毎日ダンジョンで探索するのが俺にとっての筋トレだ。必然的にモンスターと戦うので、日に日に筋力が付いていくような気がする。
どういったものやらと思っていると、父さんがニヤリと笑った。
「好きな子ができたんだろ」
「はあ!?」
「あれ、違ったか?」
「なんで好きな子ができたら、筋トレなんだよ」
「それは父さんがそうだったからだ」
「えっ、父さんって昔、ムキムキだったの?」
「ああ、シックスパックだった」
「今はでっぷりしているじゃん」
「言うな!」
父さんは高校時代に母さんと出会ったらしい。
なんと若かりし頃の母さんに振り向いてもらうために、父さんは地道に筋トレをしていたらしい。
そういえば母さんの好みは、ガッチリとした体型の人だったような……。
俺はカレーライスを食べながら、両親の馴れ初めを聞かされるというなんともいえない時間を味わった。
それなら持っていたスプーンも曲がる。
「ええっ、曲がるわけがないだろ!」
俺は自分にツッコミを入れてしまった。それほどびっくりしたのだ。
なんだ、急にスプーンが粘土みたいに柔らかくなった。
そんな馬鹿な……!
「どうした! 八雲?」
「あら、スプーンが曲がってるわね」
両親も驚いていた。このスプーンは日頃使っているからわかる。
ちょっとやそっとでは曲がるような作りをしていない。
それが、ふにゃふにゃだった。
とりあえず、落ち着くために水を飲もう。
そう思ってコップを掴むが、
「うああああ」
陶器のコップが砕けてしまった。
やばいって、なんか力がすごいことになっている。
しかもそれがコントロールできない!!
「ちょっと筋トレし過ぎたのかも、ごちそうさま!」
俺はリビングから自分の部屋に戻った。ドアを開けて閉める際は細心の注意を払った。
スマホを見ると通知が来ていた。
「マジか……そういうことか」
俺のステータスが爆上がりしていた。
◆東雲八雲 種族:人間
力 :55 → 680
魔力 :30 → 720
体力 :40 → 880
素早さ:45 → 540
器用さ:45 → 670
魅力 :10 → 100
チャンネル登録数が、なんと100人を超えたことで、ステータスが上昇しているようだった。
それにしても力は12倍くらいになっている。
おそらくカレーライスを食べている最中に、上がったのだろう。
それなら、スプーンも曲がるし、コップも破壊してしまう。
このステータスに慣れないと、家が倒壊するかもしない。というか、寝ているときが心配だ。
もし寝相が悪かったら、目覚めたときには家がなかったなんて……乾いた笑いが出てしまう。
「やば過ぎる! やば過ぎるって!!」
もがく俺にアプリが救いの手を差し伸べてくれる。
『アプリにステータスのセーブモードの機能が追加されました』
『日常生活に支障をきたさないステータスにセーブする機能です』
ありがとうございます!
俺は早速、アプリでセーブモードを有効にした。
試しにシャーペンを持ってみる。問題なく文字がかけるぞ!
「よかった。強くなるって大変なんだな」
今回のことでしみじみと実感させられた。
強すぎる力は人を幸せにしないんだなって。
さて、問題は解決したことだし、風呂に入って沖縄ダンジョンでかいた汗を流そう。
リビングに戻って、スプーンとコップを破壊したことを謝ると、母さんは気にしていなかったようだ。このくらいで怒る両親ではないことはわかっていた。
「筋トレも程々にね」
「父さんも若い頃には、コップをうっかりと破壊したものだ」
「いやいや嘘でしょ」
「バレたか。それにしても逞しくなったな。背も伸びたんじゃないのか」
「本当?」
父さんと横に並んでみると、たしかに背が伸びていた。
マジか……。
「おいおい……180cmくらいはあるんじゃないか」
「あら、すごい。父さんを超えちゃった」
「えええっ」
これもステータス上昇の影響だろうか。
明日、高校に行くとクラスメイトたちがびっくりするじゃないだろうか。
俺は戦々恐々だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます