第31話 熟練度

 朝の通学ではドタバタだった。しかし、高校に着いてからは平穏な学校生活がおくれた。

 まあ、仁子さんが明日から登校してきたら、クラスメイトたちは大騒ぎするに違いない。

 彼女はテレビのニュースに出るほどの有名人だ。


 もしかしたら、学校をひっくるめての騒ぎになるかも!?

 しかも俺の護衛としてやってくる。それを周りに知られてしまうと面倒なことになりそうなので、明日会ったときにでも相談しておくべきだろう。


 いろいろと考えながら自転車をこいでいると、上空を仁子さんが飛んでいた。

 正確にはジャンプしながら移動しているようだった。


「マジかよ……」


 手には一杯になった買い物袋。どうやら今日の夕飯の買い物をしてきたのだろうか。

 そして、あっという間に見えなくなった。


 速いな……さすがはランクS級の探索者だ。

 何をするにもダイナミックだな。


 ん? 明日、一緒に通学するとして、まさか大ジャンプしながら移動しないよな……。

 一抹の不安を覚える。


 そうしなくても、仁子さんは容姿で、すでに目立っている。

 トレードマークの二本の龍の角が特に!


 明日のことをこれ以上を考えても仕方ないか。

 それより、ダンジョンLIVE配信に集中しよう。


「そうと決まれば、全力だ」


 せっせと自転車をこいで、納屋に直行だ。

 田園風景を駆け抜けて、自宅へ。納屋のドアを開けて、装備を整える。

 指には氷魔法のリングと、炎魔法のリング。

 今日は炎魔法ボルケーノの熟練度を上げて、上位の魔法を習得するつもりだった。


 沖縄ダンジョンで炎魔法を使うなんて、なんて非効率と思われるかもしれない。

 炎属性のモンスターに炎魔法を行使しても、ほとんどダメージが与えられないだろう。


 だが、そこが良いのだ!

 つまり、何発でも炎魔法を撃てるということ。

 魔ポーション(小)を飲みまくりながら、ボルケーノの熟練度をカンストする勢いで行くつもりだ。


 とりあえず、LIVE配信前に新しい炎魔法を習得しておきたい。

 そのためにも、サラマンダーでボルケーノだ。


 では、早速ダンジョンポータルを起動!

 行き先はもちろん沖縄ダンジョンだ。


 ポータルが黄金色の光を放ち始めたので、開通完了。

 後は飛び込むだけである。


「それっ!」


 出た先は第五階層のマグマの海だ。昨日、冷やした大地はマグマに戻っていた。

 恐るべき熱量だな。どうやらニブルヘイムをもってしても、マグマの海を抑え込み続けるのは無理だったようだ。

 

 それでもマグマの海は危険なので、今回も氷魔法ニブルヘイムで一時的凍らせてしまおう。

 全力でニブルヘイムを放つ。


「やっぱり、半分しか凍らせられないか」


 もっと魔力総量が上がれば、可能になりそうだ。今はこのくらいの威力で我慢しておこう。

 魔ポーション(小)をがぶ飲みして、もう一度全力でニブルヘイム!


「これでよし!」


 マグマの海は凍って、岩石となって広々とした空間の出来上がりだ。

 動きやすいし、今日はボルケーノ日和だ。


 戦う場所が整ったところで、寒さに耐えかねたサラマンダーが地面を突き破って現れた。

 第五階層をすべて凍らせたので、現れたサラマンダーの軍団は常軌を逸していた。


 昨日のドロップ品の量から推測すると、多分500匹以上いると思う。

 動きは遅いモンスターなので、囲まれなければ大丈夫。


「一発目のボルケーノだ」


 モンスターの軍団の中心に放つと、サラマンダーたちが吹き上がったマグマによって宙を舞った。

 良い感じに飛んでいるな。

 ボルケーノを連発しながら、一箇所に押し込めるぞ!

 繰り返し行使していると、熟練度が上がってきているのを感じる。


「よしっ、多段ボルケーノ!」


 着地することを許さないボルケーノの乱れ撃ちだ。

 たくさんのサラマンダーがボルケーノによって、宙を舞い続けていた。


「これぞ、龍の舞ってやつか……そんなわけないか」


 サラマンダーたちはめちゃ怒っているが、止まらないボルケーノの攻撃によって何もできないようだ。

 地面に足をつけずに、ずっとクルクルと宙を舞っていたら、方向感覚がわけがわからなくなりそうだ。

 ボルケーノでサラマンダーたちを炙ること一時間。


 じっくりと焼かれたサラマンダーたちが地面に叩きつけられたころには、本当に目を回していた。モンスターでも人間と同じように目が回るようだ。


 ボルケーノで一時間も攻撃されたというのに、サラマンダーたちは目立ったダメージがない。

 日頃マグマの海の中で生活しているだけはある。


 それだけ炎の耐久度が異常に高いモンスターだ。倒すのは氷魔法としたいところだが……。

 俺にはボルケーノの熟練度が上がったことで、会得した新しい炎魔法があった。

 試し打ちには、サラマンダーが適任だと思う。

 一発で魔力100も消費する炎魔法……。


「メルト!」


 右手をサラマンダーの大群に向けて、放つ。

 大砲のような轟音と共に、発射された青く燃える大火球。


 一直線にサラマンダーの大群へ、そしてすべてを包み込んだ。


「アチチチチッ……」


 メルトを放った俺すらも、燃え上がりそうなほどの圧倒的な熱量だった。

 サラマンダーの大群はメルトの中で、溶け始めていた。

 マグマも寄せ付けないほどの炎耐性を持ってしても、メルトの前では無力だったようだ。


 メルトの熱量で、サラマンダーの大群はすべて溶けてしまった。残ったのは大量のドロップ品だ。


「やった! 沖縄ダンジョンで有効な炎魔法をゲットだぜ!」


 なんとか、LIVE配信前に新しい炎魔法を会得できた。まだ熟練度が低いけど、どんどん使っていけば、より精度を高めた行使ができるだろう。


 ドロップ品を急いで回収して、一息つこうかな。


「ふ~、ちょっと休憩するかな……やばっ」


 しかし、マグマの海は待ってくれなかった。ニブルヘイムで凍らせた部分がひび割れて、マグマが吹き出し始めた。

 このまま長居をしていたら、マグマダイブしてしまいそうだ。

 俺は走って第六階層への大階段に移動した。ここなら休憩ができる。

 やっとホッとできたことで、俺はスマホの通知に気がついた。


「あっ、忘れていた」


 めちゃくちゃ大事なことを忘れるとは、なんたる失態。

 サラマンダーをボルケーノするのに夢中になりすぎていた。


 アイテムクラフトの新しいレシピが届いていたのだ。

 一体どのようなアイテムなのだろうか。


◆フランベルジェの素材

 ・ミスリルソード ✕ 1

 ・ゴーレムのコア ✕ 300

 ・ファイアゴーストの粉 ✕ 300

 ・アサルトアントの王冠 ✕ 1

 ・炎魔石(上等) ✕ 1


 おおっ、ミスリルソードを素材にして新たな武器がクラフトできるぞ。

 鑑定でフランベルジェを調べてみる。


 炎属性の魔剣で斬りつけたときに、敵の体内に炎を発生させるようだ。

 この魔剣で攻撃すると、内側から焼かれるのか。


 しかも、装備すると炎魔法が強化されるボーナスもある。

 炎魔法メルトがすでに強力なのに……魔剣で更に強くなってしまうなんて……やばすぎだろ!


 でも、氷魔法との相性はどうなのだろうか?

 最近愛用しているアイシクルソードが使えないとしたら、勿体ないような気がする。

 そのときは、ミスリルソードをクラフトして、使えばいいか。


 フランベルジェとミスリルソードの二刀流も悪くない。


 右手に炎の剣、左手に氷の剣!

 いや待てよ……ちょっと厨ニ過ぎるかな。


 う~ん、週末にアリスとリオンに新宿ダンジョンで会ったときに見せたら、絶対にそう言われそうだ。


 どちらにせよ。フランベルジェをクラフトしないことには、新しいレシピがもらえない。

 素材を集めながら、下層へ進むのみだ。

 LIVE配信の時間も迫っているし、第六階層に降りよう!

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